猫田に小判 -新館 -

Last Modified: 2025/04 RSS Feed

No.102

スタンスを確認する、という話

No. 102 :
#金継ぎ #陶磁器修理 #徒然なる日記

古いブログには書いてあったが消えてしまったので、改めて金継ぎ修理のスタンスについて書き残しておこうと思う。というのは、金継ぎがブームになるにつれ、私の立ち位置は意外なほど世間の一般認識の金継ぎと乖離しているんだな、と気付いたからだ。

元々、金継ぎというのは漆芸という世界の端の端の端に在るか無いかもはっきりしないような感じで存在していたもので、頼まれたからやってあげるけど自発的にやる類のものではないという考え方がベースとして有ったというのはどこかで話したように思う。安価な器の金継ぎは断るという考え方は割とスタンダードだったし、その割には、やり方は適当で、漆芸家でも漆を使うの勿体ないし時間を掛けるのも面倒だから石膏とか接着剤で形にして金色に見えるように上辺だけ着彩しておけば良いじゃんという感じだったり、下地から漆を使っても木材主体で長期的に実用出来る想定の直しではなく見た目重視の装飾として行われていた。漆じゃ強度が足りない時はエポキシを使いますと公言していた漆芸家も居た。そもそも金継ぎについて質問しても答えが非常に偏っていて、基本的にはそういう風にやっているからと言われるだけで理論的な回答は殆ど無かったと言ってもいい。大都会の東京でも金継ぎはそんな感じの扱われ方をしていたというのが30年くらい前の話。
20年前に田舎へ帰ってくるのを機に、もうちょっとちゃんと使えるように陶磁器を直すことを考える人が居ても良いんじゃないか、と思って店をやることにした。

で、その時に「陶磁器の町医者」という基本コンセプトを考えた。だから、薄ピンク色の十字を真ん中にシンボルとして置いて、その周りに「本当に大切なものと 少しでも長く一緒にいたい そんな想いのために」とキャッチコピーを記述したチラシを作って陶器店を周ったりした。「ほん陶」という店の名前は、このキャッチコピーをもじったもので、本当にちゃんと直しているんだよ、という意味も込められている。ホームページにも同じ文言を付けていたが、長いので今は「いつまでも大切に使いたい想いのために」と短くしているが、気持ちは変わっていないつもり。

そんなわけで、私にとって金継ぎというのはあくまでも修理というか、治療みたいなスタンスだ。
実際にお医者さんがどういう考えで病院をやっているのかは知らないが、私は、入院した人が、元の生活に戻れるように最善を尽くすのが医者じゃないのかと思っていて、陶磁器の町医者も同じだろうと考えている。
入院した人が以前と同じ毎日を続けられるようなったら退院OKなわけで、患者をアスリートや天才になる英才教育を施して退院させる必要はないと考えている。だから、金継ぎはアートや自己表現行為だとか、直した器は付加価値の付いた作品だとは考えていない。当然、患者様である器の情報や写真は外部には一切出さない守秘義務も厳守している。
個人的な理想としては「わぁ~金継ぎがしてある!」と思われるよりも「言われてみれば金継ぎしてあるね」程度に気付いてもらえるくらいが御の字だろうと思っている。大切なのは金継ぎした事ではなく、器が少しでも長く以前と同じ毎日が続けられるようになること、元の器にとってベストであること、それをするのが陶磁器の町医者の仕事じゃないかなと思う。(怪我してないのに顔に絆創膏付けて可愛さアピールするヤンキー文化って昔あったね、そういえば。あんまり関係ないけど急に思い出した。)

というわけで、私自身は金継ぎで表現者になる気は無いし、自分の事を金継ぎ師とか金継ぎ作家と名乗った事は全くない(&今後も名乗る予定はない)のだが、かと言って、ヤブ医者だと思われるのは嫌だし、民間療法じみた事に似非科学で色を付けた医者気取りにもなりたくないので、地味でもちゃんとした治療が出来る陶磁器の医者ではいたいよなぁと常々思ってはいる。
とはいえ、実際は分からない事も多いし、毎回、本当にこれで良かったのかと思いながら器を返却しているのが実情で、個人的な理想を盾にお客様の大切な器に私が手を入れちゃってすみませんと心の中では思ってます、はい。
こんなスタンスでやっているので、最近、結構暇なんです。世間のブームとは隔絶された陶磁器修理屋でございますが、ご縁を感じる時がございましたらどうぞ気軽にお声掛け下さい。よろしくお願いいたします。

〔 1838文字 〕 編集

■全文検索:

■インフォメーション

猫田に小判 -新館- は、猫田に小判(使用していたCGIの開発が終了してしまったため更新を停止)の続きでやっているブログです。
気分次第の不定期更新です。3ヶ月に1回くらいで見に来て頂くと、更新している可能性が高いです。
ちなみに当ブログとほぼほぼ関連性の無い事か、ブログに纏める前のアイディア程度の浅い内容しか書きませんが、Twitterはこちら
コメント欄の無いブログCGIなので、ブログについてのご意見はTwitterのリプライやDMでお願いいたします。

編集

■日付検索:

▼現在の表示条件での投稿総数:

1件

ランダムに見る