No.101
錆漆のキモは水だったという話
No.
101
:
Posted at
2024年08月23日(金)
#金継ぎ #ガラス用漆 #どうでもいい思い付き
古いブログを削除してしまったため、いつから使っていたか正確には言えないのだが、店を始めたかなり初期の頃にどこかのサイトでシランカップリング剤を漆に入れるとガラスに良く密着するようになるという話を見付け、サイトの主にメールを出したところ、ガラス用漆というのを売っている店があると教えて頂いた。内容物が全く記載されていないため、サイトで記述したようなシランカップリング剤を入れた漆か確証はないとの事だったが、東京の陶芸教室で仕事をしていた頃に「液体セラミック」というシランモノマー液を目止め剤として使っており、今は説明が省かれているが、昔は容器のラベルにコンクリートなどに浸透してポリマー化しシリカと結びついて防水効果を発揮する。アメリカの衛生法取得した安全性の高い薬剤といった内容の説明書きがされていて、シランがどんな物なのかは何となく分かっていたし、全く異なる方法でガラスと漆を結び付けるとも考えにくく、当たらずとも遠からずな漆なのだろうと試しに購入。陶磁器も鉱物粉をガラスで焼き固めている物質なのだから、通常の漆よりは間違くなく結合力は高かろうということで金継ぎに使う事にした。
実際、錆漆に使う砥の粉の成分はほぼ100%シリカ(二酸化ケイ素)なのでガラス用漆で作った錆漆は非常に硬く丈夫であり、スライドガラスに付けて乾かすと水に浸けてもちょっとやそっとでは取れないから、まぁ間違いなくシランカップリングが作用していると思われる。(その後、いつからか陶磁器にも使えるとか、金継ぎに使えるという説明書きが付くようになっていた)
そんなわけで、その時に見付けたガラス用漆を20年近くは使っていたわけだが、シランカップリング剤や漆の高騰でガラス用漆もやたら値段が高くなってしまい購入するのにも勇気が必要になってきたため、他の漆屋のサイトをいくつか見て、値段が3割くらい安いガラス用漆を購入してみた。今まで使っていたものよりも少し粘り気が強いかなという感じはしたが、多少の差こそあれ何処で買っても大差はないだろうと甘く見ていたのが仇になる。
これまでと同じ砥の粉、配合で錆を作るも、なかなか混じらない上に、作った錆が全く固まらない。漆だけならば問題なく固まるが、錆にすると何故か固まらない。配合の問題かと思って漆と水と砥の粉の割合を変えてみても、表面は僅かに乾くことはあれど押すとプニプニして中まで固まる気配なし。
同じガラス用漆だと思っていたが、よもや全く違うものなのかもしれないと思いながら、もしかしたらと水をpH試験紙で測定したところ青色に変色。pH8のアルカリ性だった。水道水はずっと中性(pH7)と疑わずにいたのだが、調べたら意外と塩素の量をまめに調整しているらしく、水道水というのはpH5.8以上8.6以下と幅があると知る。
今年は暑いから雑菌繁殖抑制のために塩素多目で調整されているのかもしれない。だから、うちの水道水はpH8~8.6になっているのか。
すぐさまドラッグストアで精製水を購入し、それで錆を作ってみたところ以前のガラス用漆よりも時間は掛かるものの同じように固まったことで、原因が水のpHだと確信。
pHの問題ということならば、アルカリ性の水道水もクエン酸で調整してpH7にすれば固まるのではないか?と試してみたところ、やはり時間は掛かるが中まで固まった。ただし、爪を立てると硬くはなっているし、爪の跡が付くほどではないのだが職人の勘レベルで硬さに違いがあるような感じがする。同じpH値ではあっても、精製水のように不純物がほぼほぼゼロのpH7と、塩素やクエン酸が入ったpH7では、硬化に差が出るということなのかもしれない。
錆漆は水を入れた本堅地は硬度が低く、無水の堅地こそが最も硬度が高いというのは昔から言われている事なのだが、私が昔、鉛筆硬度法で調べた限り大きな差は無かったため加水の有無は関係しないのではないかと考えてきた。
で、思い出したのだが、硬さを調べていた頃は確か当時最も不純物を除去できるとされていたフィルタの国産浄水器を使って濾過した水を使っていた。
フィルターの値上がりが半端ないので何年か前から飲料用は外国の浄水ポットを使うようになり、更にフィルタはサードパーティーの中国製にして、金継ぎ用はそれも使わず水道水をそのまま使うようになっていた。
それでも以前に使っていたガラス用漆は頑張って固まってくれていたわけだが、以前のものよりも安めのガラス用漆(それでも通常の素黒目漆よりは高いのだが)は顕著に水の違いに反応してしまったという事なのか、と目から鱗である。
錆漆の硬度、言い換えれば漆の硬化なわけだが、それは水の質に大きく影響を受ける。
pHの影響が一番大きいのは言うまでもないが、たとえ同じpHであっても、精製水のように限りなく純粋なH2Oに近いものほど錆漆は硬く、不純物が増えるほど硬度は落ちる。そういう事なのだ。
私は陶芸視点で錆を見るため、錆はあくまでも可塑性のある粘土であり、粘土の粘りを生むには水が必須であり加水は当然であった。だが、塗料を塗り重ねるという漆芸の視点では、水を抜いて鉱物と混ぜるという発想が生まれるのだろう。塗料は塗るための接着性と乾いた後の硬さは必要だが可塑性はむしろ邪魔になるし、水という不安定要素は排除する方が賢明だということで、加水しない方が硬いという言い方が生まれたのではないかとも考えられる。
当然と言えば当然なのだが、私にとっては完全な盲点であった。
なお、最終的に、安い方のガラス用漆を配合から調整し直して仕事に使うのは流石に時間も掛かるし面倒ということで、良い勉強になりましたと言って冷蔵庫で眠りについて頂く事にして、以前に使っていたガラス用漆を買い直す事にした。痛い出費ではあるが致し方ない。
それと、今後、錆漆を作る時には精製水を使うと決めた。精製水はドラッグストアで安価に購入出来るのは、せめてもの救いである。
古いブログを削除してしまったため、いつから使っていたか正確には言えないのだが、店を始めたかなり初期の頃にどこかのサイトでシランカップリング剤を漆に入れるとガラスに良く密着するようになるという話を見付け、サイトの主にメールを出したところ、ガラス用漆というのを売っている店があると教えて頂いた。内容物が全く記載されていないため、サイトで記述したようなシランカップリング剤を入れた漆か確証はないとの事だったが、東京の陶芸教室で仕事をしていた頃に「液体セラミック」というシランモノマー液を目止め剤として使っており、今は説明が省かれているが、昔は容器のラベルにコンクリートなどに浸透してポリマー化しシリカと結びついて防水効果を発揮する。アメリカの衛生法取得した安全性の高い薬剤といった内容の説明書きがされていて、シランがどんな物なのかは何となく分かっていたし、全く異なる方法でガラスと漆を結び付けるとも考えにくく、当たらずとも遠からずな漆なのだろうと試しに購入。陶磁器も鉱物粉をガラスで焼き固めている物質なのだから、通常の漆よりは間違くなく結合力は高かろうということで金継ぎに使う事にした。
実際、錆漆に使う砥の粉の成分はほぼ100%シリカ(二酸化ケイ素)なのでガラス用漆で作った錆漆は非常に硬く丈夫であり、スライドガラスに付けて乾かすと水に浸けてもちょっとやそっとでは取れないから、まぁ間違いなくシランカップリングが作用していると思われる。(その後、いつからか陶磁器にも使えるとか、金継ぎに使えるという説明書きが付くようになっていた)
そんなわけで、その時に見付けたガラス用漆を20年近くは使っていたわけだが、シランカップリング剤や漆の高騰でガラス用漆もやたら値段が高くなってしまい購入するのにも勇気が必要になってきたため、他の漆屋のサイトをいくつか見て、値段が3割くらい安いガラス用漆を購入してみた。今まで使っていたものよりも少し粘り気が強いかなという感じはしたが、多少の差こそあれ何処で買っても大差はないだろうと甘く見ていたのが仇になる。
これまでと同じ砥の粉、配合で錆を作るも、なかなか混じらない上に、作った錆が全く固まらない。漆だけならば問題なく固まるが、錆にすると何故か固まらない。配合の問題かと思って漆と水と砥の粉の割合を変えてみても、表面は僅かに乾くことはあれど押すとプニプニして中まで固まる気配なし。
同じガラス用漆だと思っていたが、よもや全く違うものなのかもしれないと思いながら、もしかしたらと水をpH試験紙で測定したところ青色に変色。pH8のアルカリ性だった。水道水はずっと中性(pH7)と疑わずにいたのだが、調べたら意外と塩素の量をまめに調整しているらしく、水道水というのはpH5.8以上8.6以下と幅があると知る。
今年は暑いから雑菌繁殖抑制のために塩素多目で調整されているのかもしれない。だから、うちの水道水はpH8~8.6になっているのか。
すぐさまドラッグストアで精製水を購入し、それで錆を作ってみたところ以前のガラス用漆よりも時間は掛かるものの同じように固まったことで、原因が水のpHだと確信。
pHの問題ということならば、アルカリ性の水道水もクエン酸で調整してpH7にすれば固まるのではないか?と試してみたところ、やはり時間は掛かるが中まで固まった。ただし、爪を立てると硬くはなっているし、爪の跡が付くほどではないのだが職人の勘レベルで硬さに違いがあるような感じがする。同じpH値ではあっても、精製水のように不純物がほぼほぼゼロのpH7と、塩素やクエン酸が入ったpH7では、硬化に差が出るということなのかもしれない。
錆漆は水を入れた本堅地は硬度が低く、無水の堅地こそが最も硬度が高いというのは昔から言われている事なのだが、私が昔、鉛筆硬度法で調べた限り大きな差は無かったため加水の有無は関係しないのではないかと考えてきた。
で、思い出したのだが、硬さを調べていた頃は確か当時最も不純物を除去できるとされていたフィルタの国産浄水器を使って濾過した水を使っていた。
フィルターの値上がりが半端ないので何年か前から飲料用は外国の浄水ポットを使うようになり、更にフィルタはサードパーティーの中国製にして、金継ぎ用はそれも使わず水道水をそのまま使うようになっていた。
それでも以前に使っていたガラス用漆は頑張って固まってくれていたわけだが、以前のものよりも安めのガラス用漆(それでも通常の素黒目漆よりは高いのだが)は顕著に水の違いに反応してしまったという事なのか、と目から鱗である。
錆漆の硬度、言い換えれば漆の硬化なわけだが、それは水の質に大きく影響を受ける。
pHの影響が一番大きいのは言うまでもないが、たとえ同じpHであっても、精製水のように限りなく純粋なH2Oに近いものほど錆漆は硬く、不純物が増えるほど硬度は落ちる。そういう事なのだ。
私は陶芸視点で錆を見るため、錆はあくまでも可塑性のある粘土であり、粘土の粘りを生むには水が必須であり加水は当然であった。だが、塗料を塗り重ねるという漆芸の視点では、水を抜いて鉱物と混ぜるという発想が生まれるのだろう。塗料は塗るための接着性と乾いた後の硬さは必要だが可塑性はむしろ邪魔になるし、水という不安定要素は排除する方が賢明だということで、加水しない方が硬いという言い方が生まれたのではないかとも考えられる。
当然と言えば当然なのだが、私にとっては完全な盲点であった。
なお、最終的に、安い方のガラス用漆を配合から調整し直して仕事に使うのは流石に時間も掛かるし面倒ということで、良い勉強になりましたと言って冷蔵庫で眠りについて頂く事にして、以前に使っていたガラス用漆を買い直す事にした。痛い出費ではあるが致し方ない。
それと、今後、錆漆を作る時には精製水を使うと決めた。精製水はドラッグストアで安価に購入出来るのは、せめてもの救いである。