猫田に小判 -新館 -

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2020年07月25日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

#金継ぎ #陶磁器修理 #ガラス用漆

今回の話は、陶磁器の金継ぎで接着をするときに使用する接着用錆漆の最適混合比についてなのだが、旧ブログ(nekotani.lix.jp/diary/)を知らない方にはいきなり接着用錆漆と言われても「?」だと思うので、接着用錆漆に至る経緯(ダイジェスト)を先に書いておこうと思う。これまでの経緯が分かっている方は、途中をすっ飛ばして結論だけ読んで頂ければ問題ないです。

<接着用錆漆が出来るまで>

陶磁器の金継ぎの接着に最低限必要なのは漆だけであるというのは、案外、見落とされがちだ。理由は簡単で、世の中に出ている金継ぎハウツー本のほとんど全てに接着のための糊漆や麦漆の作り方が書かれているから。私が知る限り漆だけで付ける話は、岩波文庫「うるしの話 松田権六著」に「漆でいちばん丈夫に接着させようとする場合には、優良な漆で「クロメ」と「ナヤシ」のかかった乾燥力の早いものを選んで、接着すべき物体の両面に塗り、完全乾燥の一歩手前というところで両面を接着させる。これがもっとも効果的な接着方法であろう。」という一文しか見た事が無い。
どうして接着のため漆に混ぜ物をするのかという理由については、案外、書いていない。いろいろ考えた末、大きく2つの理由に拠るのではないかと結論付けた。
1.接着の初期保持力を上げるため
2.浸透力が高い場合の対処
漆が固まるまでにズレないための粘着力を初期保持力と言う。昔はどのようにして破損したものを固定したのか不明だが、映画「初恋のきた道」で出てくる茶碗の修理の件で(映画は金継ぎではなくカスガイ留めという修理だが)器を荒縄で巻いて固定しているので、おそらく金継ぎも同様の方法を使ったのではないかと考えられ、それゆえに初期保持力の強い混ぜ物が必要だったと思うのだが、現代では糊の発達により、接着後の固定にはマスキングテープや養生テープが用いられるようになった。そのため初期保持力はこれらテープに依存する事になり、実は強い初期保持力はあまり必要がなくなっている。
よって、2の浸透力との問題が重要になる。陶器接着の場合、特に焼成温度の低い楽焼などは、漆を塗っても素地が吸い込んでしまって接着断面に漆が残りにくい。アロンアルファに液状とゼリー状があるのと同様、接着断面に漆を残すためには浸透しづらい物を混ぜてやればいい。そこで米粉や小麦粉が必要になってくるわである。

だが、ここで問題が出てくる。米粉や小麦粉は耐水性ではあるが温水に接すると軟化してしまうという欠点がある。年に何件か、他で修理をしたら取れてしまったとか、自分で本を見ながら直したが取れてしまったという再修理依頼が来るのだが、これは概ね米粉や小麦粉の混合の際の問題による。そこで、温水でも接着力が落ちない混ぜ物はないものかと、いろいろなものを漆と混ぜてガラス板に塗り、沸騰した湯に入れて剥離するまでの時間を計ってみたところ、最も強かったのが砥の粉を混ぜた錆漆であった。
やはり陶磁器のような無機物の接着には米や小麦のような有機類ではなく無機類を使うのが最善なのか、と分かってみれば実に至極当然な話である。
しかし、パテに使用する錆漆では少し硬すぎて破片数の多い器の修理では接着誤差が大きくなり不向き。ならば混合比率を変えて対処すれば良いのだろうという結論に至る。

と、ここまでが、旧ブログで接着用錆漆が生まれたダイジェストである。

<接着用漆の混合比>

ということで本日の主題、混合比の話。

結論から言うと、混合比は

砥の粉:漆:水 = 4:2:1(重量比)

である。砥の粉の半分が漆、漆の半分が水である。覚えやすい。ここへ至るまで、いろいろな比率で試験して来たが分かってしまえば実に美しい比率。陶器も磁器も同じ比率で問題ない。

実践的な話をすると、この比率ならばどういった順番で混ぜても構わないのだが、私は砥の粉と水を混ぜてから、漆を入れて練るようにしている。理由は、私の場合、砥の粉に「黄」または「赤」の含鉄砥の粉を使っており、これが漆と反応して練っている間に黒く変色する事で混合進度を視覚的に確認出来るようにしている。なので、砥の粉と水を混ぜてしまってから、漆を混ぜて色の変化を見ながら使い時を探っていくわけである。一応、目安は黒くなったら。黄土色から黒く変色するまでは練る作業を続ける。
パテ用の錆漆は保存が出来ないが、接着用錆漆はサランラップで包んで空気を抜いておくと、結構、保存が効く。2週間くらいは保管できるように思う(その前に使い切ってしまうので保管期限までは試験していない)。空気の抜き方は、サランラップで挟んでからクッキングシートを乗せてヘラで押す。以前にブログに写真付きで説明した通り(nekotani.lix.jp/diary2/tegalog.cgi?posti...)である。

ちなみに、パテに使用する錆漆の混合比率は「砥の粉:漆:水 = 60:20:15」。少しややこしい比率ではあるが、接着用漆の比率に15を掛けると「60:30:15」なので、実は接着用とパテ用の錆漆は漆の量が少し違うだけで砥の粉と水の比率は同じだったりする。漆が10違うだけなので、慣れてくれば残ったパテ用錆漆に少し漆を足して接着用にしたり、接着用錆漆に砥の粉を足してパテにしたりすることも可能なのかもしれないが、私は常に試験も兼ねており比率至上主義なのでやった事は無いが、趣味で金継ぎをやっていて大量に余ってしまって勿体ないなぁという場合は、錆漆の重さを計って重量比で計算すれば、加える漆や砥の粉の量は分かるので、そうして作っても良いのかもしれない。この辺は自己責任で。

〔 2385文字 〕 編集

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