LLキルンに買い換えたという話

先日、電気窯を新しくした。12年くらい使った陶夢伝は、メーカーから耐火レンガの寿命だと言われていたのだが、温度ムラはあるものの、まだ達成温度域まで上がるので使い続けていた。しかし、遂に一番奥のヒーター線が切れた。それが買い換えるきっかけになった。
陶夢伝という電気窯、自分でメンテナンスをするのがかなり面倒臭い。事前説明では簡単だと謳われているが、正直ストレスが溜まりまくる仕様。というのも、電気コードが全て窯の下にある。つまり、電気関連のメンテナンス作業のたびに狭い隙間から窯の下に手を伸ばして作業しなければならない。言うまでもなく窯の下はとにかく狭くて暗い。例えば、ヒーター線を張り替えるためには、まず、床に寝転んで窯の下に手を伸ばし、懐中電灯で照らしながらレンチで六角ナットを緩めて電気コードを外し、次に、窯に頭を突っ込んで炉壁のピンを全て抜き、新しいヒーター線をピン打ちして止めて、最後にもう一度、床に寝転んで同じようにして六角ナットを締めるわけで、これがとにかく荒業。しかも締めにくいので、まれに締め方が緩いと焼成中に電気コードが焼けたりする。12年で何度心が折れたことか。
それでも、買い換えるとなれば窯の処分代を含めて100万近くかかるわけで、それに比べたらストレス溜まっても自分でメンテ出来るならと思って陶夢伝を使っていた。しかし、どうしても手の届かない電気コードに繋がっているヒーター線が切れたことで、私もキレた。次は、とにかくメンテナンスの楽な窯にしよう。電気窯の購入の最優先事項は、自己メンテナンスの楽なものだ。そう悟った。
そういうわけで、窯の選定を始めたわけだが、ここで一つ問題が出てくる。この12年で仕事場の入り口を新しくした時に幅が3cmほど狭くなっていた。窯の容量が現在と同等で、更にメンテナンス性を優先して選定すると、この入り口を通せる窯が無いのだ。古い窯は壊せばいいが、新しい窯はそうはいかない。わずか3cmだが、入らないのでは元も子もない。窯が焚けないため物も溜まってきているし、早々に決めなければならない。
夜間必死にネットサーフィンをすること数日、見つけたのがアメリカの窯。20年ほど前にスカットというアメリカの窯を使わせてもらったことがあるのだが、放熱が酷く、それをカバーするために電気をガンガン使って温度を上げるという感じで正直あまり良い印象が無かった。しかし、さすが20年。今やスペースシャトルの耐熱レンガを自作する国の窯。データを見る限り、日本の窯と大差なし(というか、日本以上か?)。しかもDIY至上主義的な国らしく、あらゆるメンテナンスが一人で出来るように最初から設計されている。一番驚いたのは窯が分割すること。日本の窯は100kg超の塊がドカーンと届き、設置するのも死にそうに大変なのだが、アメリカの窯は約20kgづつのパーツで届いたものを自分で組み上げる仕組み。そのため入り口の幅の最低制限は25cm(笑)。そして安い。同じ容量の日本の窯より10万円くらい安い(結果、トータル70万くらいで済んだ)。いろいろと驚きである。
こうした窯を日本で販売しているメーカーは何箇所かある。DIYのコンセプトはどこのメーカーも同じだが、レンガの構造や配線など細かい部分に差異がある。いろいろと調べた結果『LLキルン』という窯が一番良さそうだということで、直接電話をして細かい部分を聞いてみた。長くなるので割愛するが、結論は、信頼できる。専門的な話も出来るし、とにかく親身。実際に送ってもらう窯について「外壁のここに何cmの細い擦り傷がありますがどうしますか」と写真付きでメールをくれる(機能上全く問題のない傷で、言われなければ気付かないレベルまで細かくレポートしてくれる)。日本のメーカーでは考えられないほど丁寧な対応だ。
そんなわけで、契約終了からわずか3日で納品。窯も事前に動画で組み立て方を教えてもらっているので、一人で組み立てて30分かからずに終了。本当にこれで良いのか?と思うほどに簡単で驚いた。
では実際の使い勝手はどうなのか。一番知りたい部分だと思うので、少し細かく説明しようと思う。
まず、添付されている分厚い説明書(日本語訳付き)。窯の使い方だけでなく、配線図やサイリスタのプログラムについて、ヒーター線交換時に使用するドライバーなどの必要道具類等々。何とレンガの交換方法まで記載されている。更に、窯焚きでのコーンの種類や倒れ方の良し悪しなど、下手な陶芸入門書よりも使える内容。ペラペラのコピー用紙数枚をホチキスで止めただけの日本の窯とは大違い。徹底してTheアメリカ。DIY指向なのだ。きちんと読むだけで1時間以上はかかる。
次に窯の構造について。
窯は大きく分けると、蓋、炉壁、底、サイリスタの4パート。炉壁は1パーツが約25cmの輪切り(ドーナツ状)でヒーター線と温度計が組み込まれており、この輪切りの炉壁を積み上げて容量の調整を行えるようになっている。一番安いモデルは2段。今回は3段にした(結果的に容量アップ)。4段以上も可能だが、頭を入れて窯詰めするには3段が限界なので、4段以上は都度、上の炉壁を取り外すことになる。最初から取り外すことが前提で設計されてはいるが、高さのあるものを焼くという特殊な状況でなければ、段数を無理に増やすより炉壁径の大きいモデルを選ぶ方が良いと思う。
ヒーター線は炉壁のみで蓋と底には付いていない。これで本当に大丈夫なのか?と思ったが、蓄熱性の高いレンガと耐火ウールにより十分に焼き締まるし、25cm毎に温度計で計測し加熱量を調整するので上下の温度差も少ない。円形に近い8角形状も焼きムラが出ない事に寄与していると思われる。和製窯のような立方体ではないのが不思議だったが、焼成をして納得した。
底には還元用の溝が切ってあり、更にオプションでベントシステムを付けると焼成で出る加熱水蒸気などの炉内大気調整もしてくれるらしいが、私は自分で色味穴調整すればいいかと思って付けなかった。
ちなみに炉壁パーツは外壁の留め具でパチンと固定するだけ。レンガをモルタルなどで補強する必要は無い。不安だったら内壁の隙間に耐火ウール詰めてくれと言われたが、何もせずに焼いても火が漏れることは無かったので、今の所は重ねただけにしてある。
次に窯炊き。私が購入したイージーファイヤーは、あらかじめ登録されているプログラムと、自作できるプログラムの両方が使用可なモデル。
登録済みプログラムには、遅めの素焼き、早めの素焼き、遅めの本焼き、早めの本焼きの4パターンがあり、目的温度と焼成パターンを決めてスタートすれば昇温して自動でスイッチが切れる。
驚いたのは、本焼きの速さ。早めの本焼きで1200℃程度なら5〜6時間である。ちなみに素焼きは700℃設定で7〜8時間。これまで20年以上、本焼きは素焼きよりも時間が長いという固定観念でやってきたので、この焼成時間は目から鱗だった。よく考えれば、水蒸気爆発を起こさないために素焼きには時間をかけ、素焼きした施釉品なら爆速焼成でOKというのは極めて理に適っている。焼成時間が短いと生焼けになると昔から言われてきたが、上記したとおり耐熱レンガと窯設計が優秀なので、普通の器であれば焼きムラは全く起こらない。
また、レンガの蓄熱性が良いので温度の下がりが遅い。一般的には焼成時間の1.5〜2倍の冷却時間が必要と言われているが、1250℃まで上げて冷却に2倍の時間が経っても500℃程度ある。窯出し出来る100℃になるには24時間かかるので冷め割れ品は出なかった。
なお、電気代は容量アップに対し、熱効率の良さと焼成時間の短さにより、これまでと同等か少し安くなった次第。有難や有難や。
と、メリットばかり書くと怪しい広告になってしまうので、デメリットもきちんと書いておくべきだろう。
まず、棚板が8角形(または、それを半分にした形状)であること。
初めて窯を購入するのであればデメリットにはならないが、今まで四角形の棚板を使ってきた人にとっては、既存の棚板が使えなくなるので新しく買い直さなければならない。1枚5000円。5枚以上は使うと思うので(私は10枚買った)、それだけ出費が嵩む。四角形の棚板を切断すればいいのだが、カーボランダムの棚板はそう簡単には切れない。石屋さんに切断を頼んだら棚板を買う値段と大差無かったので、結局買うことにした。
次に、方形の棚板に3点支柱で詰めていた人には、かなり頭の体操が必要になること。
初めて詰めた時は今まで4つ入った丼が3つしか入らないので、困ったことよと思ったが、4点支柱にすれば良いことに気付き、むしろ方形の棚板より多めに詰められる事もあることが分かった。結果オーライ。
更に、既定プログラムで上限温度を決めるのがオルトンコーン番号なこと。私は大学の頃からゼーゲルコーンで温度を考えてきたのでオルトンコーン番号に馴染みが無い。そのため説明書の表で確認する手間がいる。
また、独自の昇温プログラムを組む時には可変焼成傾斜率というのを計算する必要があること。
例えば3時間で300℃昇温したい場合に和製サイリスタでは「300℃」「3時間」と2つの値を入れるが、米国サイリスタは「目的温度から開始温度を引き、それを時間で割った値」を入れる。グラフを書けば分かりやすいが、頭の中で計算するのがなかなか慣れないし、火入れの窯の初期温度によって傾斜率が変わるので、何かと面倒だったりする。傾斜率の方が合理的なのは分かるが、意外と慣れるのに時間がかかる(というか、まだ慣れない)。
ちなみに温度表記は摂氏。日本仕様モデルとして華氏から摂氏に変更しているそうだ。
それから、デメリットかどうか分からないが、アメリカの棚板は分厚い。日本のカーボランダム棚板は厚みが1cm(正確には9mm)。LLキルンのカーボランダム棚板は1.5cm。たった5mmと思うかもしれないが、カーボランダムは重い素材なので5mm増しでも相当に重い。
そして、炭素素材なので窯の酸素を奪う。初めて窯を焚いた時に、OFで焚いたのに作品の色がRFになったため、なんじゃこりゃとビックリした。原因が分からずいろいろ考えた結果、もしやと思い、次の窯で少し余裕(特に高さ)を持たせて詰めたところ、そこそこOFになった。5mm増し×棚板枚数の炭素量は、結構、窯の酸素に影響を与える。逆に、ちょっとRFにしたい時には棚板を近づけて窯詰めすれば良いのかと分かって、これも結果オーライなのだが。
そういうわけで、アメリカ製の電気窯について記載してみた。
結論として、個人的にはアメリカ製の窯に変えたのは正解だったと思う。少なくとも今までの窯よりは大幅に正解。あとは経年により、どれくらいメンテナンスが必要になるかだが、これは追い追い記載できたらと思う。
<補足 2018.1.8>
LLキルンさんが、年間アクセス二桁のこのサイトを発見し、わざわざ丁寧なメールを頂きました。
リンク貼って欲しいという事なので以下に記載いたします。
エルエルキルン,陶芸窯,ガラス窯

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