誰も書かない金継ぎの話(後編)

さて、前回からの続き。今回は質問にあった金粉と金蒔きについて解説します(長いので気合入れて読んで下さい)。あと、面倒だから後編しか読まないとか言わないで、前編に大切なことが書いてあるので、前後通しで読んでほしいなぁ。と思います。
と前置きした上で、それでは、始めます。
まずは、基礎知識として金粉の種類の説明を。
金粉と一口に括ってしまうが、実際には目的に応じて細分化されている。
大別すると、『磨粉(みがきこ)』という地金(塊)を削って作った粉と、『消粉(けしふん)』という箔を加工して作った粉に分かれる。
それぞれに粒の大きさがあり、磨粉は1号〜15号(1号が一番小さい)、消粉は「コマカ(細)」「カサアリ(嵩有)」から選ぶことができるようになっている。
また、磨粉は粒子の形状の違いで「丸」「平目」「梨地」などの種類がある。
さらに、金の色の違い(金含有量の違い)もあり、金のみは純金(24K)。金に銀や銅などを入れることで1号、2号とか、23K、22K、あるいは、赤金、青金などの名前が付く(製造店により混合比が変わるので名称も違うことが多い)。金のみが最も赤みが強く重厚感があり、他の金属が増えると赤みが薄れて青み(緑み)が強くなり華やかになってくる(この辺は私観が大きいとは思うが)。
ちなみに、金粉は製造しているメーカーによって、同じ名称でも微妙にその基準が異なるため仕上がりのニュアンスが変わってくることが多いし、同じ店でも、例えば製造責任者が亡くなって代替わりすると明らかに仕上がりが変わることもあるので、気に入った店の粉を見つけたら、できるだけ早め多めに発注しておく方が安全だ(まぁ、仕事にでもしない限り、普通は1gあれば十分だと思うけども。)
では、実際に金継ぎで使用する金はどれが良いのかという話だが、前編でも少し触れたが、金はあくまでも下地に対しての装飾的な意味合いで用いられるものだから、はっきり言ってしまえば好みだ。
が、そう言い切ってしまうと詮無いのでもう少し理論的に詰めてみる。
よく「この漆器は10回、漆を塗っています」みたいなことを売り文句にしている器がある。では、何故、何回も塗り重ねる(実際には単に塗るわけではなく、塗り→研磨を繰り返す)ことが売りになるのかというと、多層化させることで皮膜強度を上げる意味合いもあるが、むしろ重要なのは平滑性が高まるからだ(皮膜強度を上げるだけなら、研磨する必要はないわけで)。
平滑性を高めると2つのメリットが生まれる。
一つは、光沢感が増して綺麗に見えるという視覚的なメリット。漆芸では光が逃げないようにすると表現するらしいが、鏡面性が増して反射する(映り込む)像に歪みが無いと人間は美しさや高級感を感じるので、物としての価値が上がるわけだ。
もう一つは実用面で、平滑だと表面積が小さくなるため汚れがつきにくくなるというメリット。マットな質感の湯飲みと、釉薬が良く溶けて表面のガラス化が進んだ湯飲みでは、マットな方が早く茶渋で汚れてくる。それが器の趣になるかどうかは別として、物理的には凹凸が増えるほど汚れが付いて不衛生に繋がる。
よって、この2つのメリットを最大限に生かすなら、金もできるだけ平滑な方が良いということになる。そのためには、赤漆を出来るだけ薄く塗り、丸粉の2号以上を使い、仕上げに拭き漆をしてから、研磨して金粒の半分を削れば最も平滑性が上がり光沢感が最大になる。(1号は粒が小さすぎて研磨しにくい。)装飾用金継ぎでは、この方法で金ピカにしたものが多い。
ただし個人的な意見だが、これはあくまでも漆および金粉にとってのベストであって、陶磁器にとって本当に良いのかという疑問がある。
もう少し分かりやすく言うと、研磨量が増えれば、それだけ陶磁器表面の、特に釉薬が軟質釉の場合は傷が付くリスクが高まってくる。軟質釉というのは、西洋磁器や、九谷、伊万里のような赤絵に使用する低火度で焼き付ける釉薬のこと。特に、金彩の入った器は3H以上の鉛筆で傷がつくほど硬度が低いものもある。修理のメリットのために、本体の器に傷を付けることは、果たして本当の修理と言えるのだろうか?という疑問があるわけだ。当然、傷が入った表面は汚れやすくなるし、何よりも陶磁器の表面は漆器のような塗り直しは出来ない。一度入った傷は二度と元には戻らない。装飾用はさておき実用のために直すなら、それって本末転倒と言っても良いのではないだろうか。
以前に書いたかも知れないが、修理で傷付けた箇所を隠すため、必要以上に金蒔き面積を増やした修理というのが案外多い。中には傷を隠すために模様まで付けてドヤ顔な修理にしたものもあったりする。私は修理屋であると同時に陶芸家でもあるので、作り手の気持ちを考えると、これは流石にどうなのよ、と思うのだ。勿論、修理箇所以外は絶対に傷を入れませんという高度な技術を持っていれば良いのだが、実際問題、100%修理箇所以外に触れず修理をするというのは、ほぼほぼ不可能に近い。
そういった理由から、極めて多種な陶磁器を修理する私の場合、金は研磨のいらない消粉を使うことにしている。粒度はコマカ、色は24Kのみにした。
金継ぎは壊れた器の新しい魅力にもなるが、基本的に修理箇所はドヤ顔せず、あくまでも芝居の黒子の如くあるべしという信念があるので、華やかさを排した24Kを使うことにしている(値段が高いけどね)。
それじゃ、平滑性のメリットが減りませんが?という疑問は当然あるだろう。確かにそうなのだが(とは言っても、下地をしっかり平滑にして蒔くタイミングを間違わなければ、消粉でも平滑性や光沢はそこそこ出せる)、どんなに平滑性を上げても、やはり実用すれば金は磨耗して無くなってくる。しかも、研磨した丸粉とあまり耐久性は違わなかったりする(たぶん、金の層の厚みが大差無いからだと思う)。
それでも、平滑性を多少は犠牲にしている側面はあるわけなので、うちの店は1年以内の再修理は無料、1年以上の再修理は割引を保証します、ということにしてメンテナンスを手厚くするようにしている。趣味で金継ぎをするなら、自分で何度でもメンテナンスできるわけだし、消粉でも良いのではないかと思うのだが。
それから、金蒔きで使用する道具について。
金蒔きの道具には「粉筒(ふんづつ)」「あしらい毛棒(けぼう)」「真綿(まわた)」の3つが多く使われる。真綿の代わりにコットン(木綿)を使うことも出来るが、先に書いた通り、仕上がりの平滑性を作るにはコットンよりも真綿の方が優れているので、入手可能なら真綿がベター。(ちなみに、真綿は蚕から取った絹糸のうち、縮れて織物にできない生糸を集めてまとめた綿。主原料はたんぱく質)
金継ぎのハウツー本の多くは真綿のみの事が多いが、私は「あしらい毛棒(以下、毛棒と略)」がマストだと思う。どうしても3つのうち一つしか買うお金がないということなら、迷わす毛棒を推す。理由は簡単で、応用範囲が広いから。
真綿は焼締の陶磁器に使うと引っかかって使い物にならないが、毛棒は焼締の器の金蒔きにも使える。金継ぎで真綿しか使わないという人は、たぶん焼締の陶磁器の修理はほとんどやったことがないか、相当量の金粉を無駄に使っているかのどちらかではないかと思う。粉筒は広い面積にできるだけ均等に粉を蒔くための道具なので、余程、大きく修理を行うことが無い限り使わないし、毛棒でもそれなりに代用が効く。
ちなみに、毛棒は日本ムササビの毛を束ねたもので、非常にやわらなく滑らかでありながら金粉をがっちりと掴める優れモノ。100均の絵画筆で代用しているという発言もたまに見るが、そんなに高い物ではなないから代用品を使わずに買うべきだと思う。無論、毛棒と真綿の両方を買うのがベスト。
最後に金蒔きのコツについて。
(綺麗に下地の漆を塗り終わったという前提ありで)まず、毛棒の先端に金粉を付けてから、金蒔き箇所へそっと移動し、中指で毛棒の軸を軽く弾きながら移動させ、金粉を少しずつ落としていく。完全に粉で覆う必要はないので(そこまでやると金粉が勿体無いし)6割程度覆ったら、毛棒で履くように金粉を払っていく。この時、出来るだけ力を入れず、毛棒は漆に触れないよう注意して払う。毛棒が漆に触れてしまうと、せっかく塗った漆に傷が付いたり、ひどい時には毛棒と漆が付いて、やり直しになってしまう。あくまでも金粉のみ漆に触れるように気をつけながら、ゆっくりと毛棒を動かす。
あらかた漆に金粉が付き、余分な金粉も落とせたら、少し時間を置いてから(気温と湿度により異なる)ゆっくりと真綿で金を撫でていく。この時も絶対に力は入れず、真綿は金粉のみ触れるようにする。え?これって金粉と真綿が触れてます?というくらいで良い。時間をかけて少しずつ撫でることで金粉と漆が密着し、(下地が平滑であれば)光沢感が増してくる。
どの程度の光沢が良いかは、作業者の好みや器の雰囲気にもよるので、ここで良いかなと思ったら作業を止めてムロに入れて乾かす。
私はこれでOKだと思うが、どうしても金が取れそうで不安な人は、拭き漆を一回やっても良い。まぁ、丸粉じゃないのであまり効果は無いと思うけども。
それと、余談だが、真綿は徐々に金粉が付着して黄土色になってくるが、汚れているわけではないし金粉も勿体ないので使い捨てとか止めて下さい。お蚕様にも申し訳ないですし。お願いします。
というのがコツになる。文章のみなので分かりにくいとは思うが、1、2度やってみれば、言っていることは大体、納得がいくのではなかと思う。
長くなったので、とりえあずはこんなところで。

4件のコメント

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko
    猫田さま。
    詳しいご説明、ありがとうございます。
    このような理にかなった説明は、どの本を読んでも紹介されておりません、大変ありがたいです。
    それにして「あしらい毛棒の使用方法、漆には触れずに、「金粉のみ漆に触れるように気をつけながら、ゆっくりと毛棒を動かす。」というのはなかなか難しそうですね。
    これから「消粉」「毛棒」「真綿」を買いそろえて行きたいと思います。
    なんだかワクワクしてきました、ほんとうにありがとうございました。
    あっ、「真綿」とはコットンのことだと思い込んでいたので、プランターに綿花の種を植えてしまいました、ただいま、双葉状態です(笑い。
    失礼いたします。                 埼玉 中村

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_10_3) AppleWebKit/600.6.3 (KHTML, like Gecko) Version/8.0.6 Safari/600.6.3
    お読み頂きまして、ありがとうございました。
    金蒔きで失敗する原因は3つありまして
    1. 焦りすぎ
    2. ケチりすぎ
    3. 力入れすぎ
    です。
    焦りすぎは、毛棒や真綿を動かすのが早すぎて失敗。
    ケチりすぎは、最初に毛棒に付ける金粉が少なすぎて失敗。
    力入れすぎは、毛棒や真綿を強く持ちすぎて失敗。
    しますので、そこに気をつければ大体、上手くいくとおもいます。
    それから、真綿とコットンは、私も金継ぎを始めた頃に薬局で買ったコットンでどうしても金蒔きが上手く出来ず、恥を忍んで化粧品売り場のおねえさんに「最高級コットンが欲しいんですけど」と話をした時に、コットンと真綿が別物だと知りました(笑
    どっちも綿が付いているので、知らないと勘違いしますよね。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/43.0.2357.124 Safari/537.36
    はじめまして。こんばんは。
    数か月前にこのブログの存在を知ってから、金継ぎの記事をすべてプリントアウトし繰り返し読ませていただいてます。
    今回の記事もとても興味深いです。消粉を蒔いておわり、というのではなく、磨いて光らせる方法があるのは知っていたのですが、気になりつつやったことがありませんでした。でも、耐久性に差が出ないのなら必要ないですね、ということが自分の中で腑に落ちたので良かったです。あまり急いで金の種類を増やさなくてもいいんだな、と。
    ひとつお聞きしたいことがあるのですが、半磁器や素焼きのものは、さびをつけるときや水研ぎのときの汚れが落ちません。これはもうマスキング以外に防ぐ方法はないのでしょうか?紙製のマスキングテープで覆っていますが、それでも完璧にはできません。
    もしなにか良い方法があれば教えていただけないでしょうか。

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/43.0.2357.124 Safari/537.36
    コメントを頂きありがとうございます。
    ご質問の件について書き始めたら長くなってしまったので、ブログ記事として後日アップいたします。
    少々、お待ち下さい。

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