誰も書かない金継ぎの話(前編)

今回は、金継ぎで使用する金についての質問を頂いたので、その回答と補足について書こうと思います。
なお、質問の回答なので本来は敬体で書くべきなのですが、敬体はキーボードを打つ時にリズムが取りにくいという極めて個人的わがままにより、以下、常体での文章となりますので何卒ご了承下さい。
では、スタート。
私が金継ぎを始めた頃は、まだネットを検索しても全く金継ぎのきの字も無かったが(というかYahoo!の日本語版も無い頃だから当然といえば当然なんだけれども)、最近では犬も歩けば棒に当たる程というか、ツイッターで日々、金継ぎやりましたーとか、今、金継ぎやってまーすという写真付きのツイートが嫌という程ひっかかるくらい、それなりに広まってはいる、と思う。少なくとも、やり方は知らなくても、あぁ金色のやつね、程度には認知度がある、ような気はする。
ただし、特に趣味で金継ぎをしている人がネットにアップする記事は十中八九、金継ぎの最も大切な部分が理解できていない。(ぶっちゃけ、教えている人間も、きちんと理解できていないから教わる人間も理解しない悪循環ではないかと思ったりするのだが。)
では、金継ぎとは何をする事なのか、そして何が大切なのか。
私が知る限り、それをきちんと説明した書物や記事は皆無だ。理由は簡単で、金継ぎは個々に技法が点在するだけで、学問として体系づける作業を誰一人やってこなかったから。金継ぎというのは、それくらい発展途上なものなのだ。
そこで、良い機会なので、(叩き台にすることも考慮して)金継ぎの話の整理から始めようと思う。
まず、金継ぎとは何をしているのかという話だが、金継ぎ作業というのは95%が下地作りである。金継ぎに限らず、これは漆芸全体にも言えることなのだが、特に陶磁器の金継ぎは下地作りこそが命。最表面の金の装飾作業は全体の5%以下に過ぎない。
次に、何が大切なのかは、上記から分かる通り、どのようにして下地を作るのかをきちんと考える、ということだ。
少し斜め方向から解説すると、車に乗る人は大抵、何回かワックスがけをしたことがあると思うが、5年10年と車に乗っていると、どんなにきちんとワックスを掛けても新車の時のように綺麗には仕上がらなくなってくる。これは車の塗装が経年で荒れてしまうからだ。つまり、下地が荒れていると、どんなに高価なワックスを綺麗に塗っても光沢は蘇らない。新車の輝きを出すには、まずきちんと洗車した後に、粘土系の粒子の細かい研磨剤で時間をかけて塗装表面のキメを整えてやる必要があるわけだ。
金継ぎもそれと同じで、どんなに良い金を揃えたり、一生懸命に磨いても、下地がきちんと出来ていないと良い仕上がりにはならない。逆に言えば、多少、金蒔きのタイミングが悪くて失敗しても下地がきちんと出来ていれば、やり直しはそれほど大変ではない。だから、金継ぎを始めようと思う人は、金の蒔き方よりも、下地作りに神経を使うべきなのだ。
さらに、ほぼ誰も語らない大切な事が、金継ぎの体系という側面。
(何度かブログで書いたと思うが)現在、金継ぎには「装飾としての金継ぎ」と「実用としての金継ぎ」の二つがある。もう少し分かりやすく言うと、使わない金継ぎと、使える金継ぎの二つの技法があるということになる。
具体例で言うと、例えば接着用の漆には「糊漆」と「麦漆」がある。陶磁器の場合、糊漆は装飾用、麦漆は実用だ。理由は以前にも書いたと思うので割愛する。
また、パテに使う漆は大別すると、「コクソ」という漆と木粉を混ぜたものと、「サビ」という石粉を混ぜたものがある。これも、装飾用がコクソ、実用がサビだ。コクソとサビは書いたことが無いかもしれないので少しだけ説明すると、コクソは木粉を使っているため固まっても切削性が良く、形を加工するのが楽だという特徴がある。反面、陶磁器とは相性が悪く、実用に使うと早ければ1,2年、長くても4年くらいで形が反って素地から取れてしまう。つまり陶磁器の実用には向かないパテなのだ。対して、サビは石粉のため非常に硬く、加工するのは面倒だし時間もかかるが、経年でも反りを生じ無いため取れにくい。絶対に取れないわけでは無いのだが、取れても変形しないので、麦漆で接着してリサイクル可能だ。(なお、素地が陶磁器ではなく木材、いわゆる漆器の場合、コクソは器と堅さが近いため実用の修理にも使うことが出来る。簡単にいえば、無機物には無機物、有機物には有機物を使用する。素地と材料はできるだけ相性の良い材料を使うのがセオリーだ。)
さらに、漆を何度重ね塗りするか、どういう道具で、どのように研ぎ出すかも、装飾と実用では違ってくるのは自明だろう。
つまり、下地の作り方が、装飾と実用では全く異なってくるわけで、特に実用の場合は「耐熱」「耐水」「耐衝撃」「耐磨耗」など、様々な条件を考慮する必要があるわけだが、案外これがおざなりになっていることが多い。
ちなみに、某動画サイトで金継ぎや金繕いでヒットする動画は(ほとんど見たと思うが)100%装飾用の金継ぎだった。まぁ、金継ぎがどれくらい素晴らしいか、価値があるかを宣伝する動画なので、装飾用になってくるのだと思うが、1つくらいは金継ぎした後にお茶を入れて飲んだり、ジャブジャブ洗ったりするような動画があったらなぁと思う。それが無いから、余計に金継ぎは実用のために使え無いとか、高価な器でないと出来ないという誤った認識が広まっているような気がしたりもする。
かように、金継ぎを行う場合は、直した器を鑑賞したいのか、それとも、毎日使いたいのかをよく考え、それに合わせた材料や技法を適切に用い、きちんと下地を作ることが本来は必要なのだ。
そして、無論、表面に乗せる金粉の種類や技法も、装飾用と実用では異なる。と、私は思っている。
では、何が違うのか。というわけで、やっと、ここから質問の回答になるわけだが、前置きで超長くなってしまったので次回。(別に、出来の悪いテレビ番組みたいに視聴者を煽るつもりではないので。単に書くのが疲れたからなので。えぇ、すみません。どうもすみませんです。)