金継ぎでNOA漆は使えるか?という話

前々から私が陶器の修理にMR漆(非加熱の精製法で仕上げた塗り漆)を使っている話はしているが、実はNOA漆も使用していることは書いていなかった。もっとも使用開始は去年初頭なので、まだ1年ちょっとしか使っていないから、ブログの更新頻度からして書けず仕舞いだったと言うほうが正確か。
それはさておき、MR漆についての話はネットを検索すると多少出てくるのに、NOA漆はどういうわけかほとんど見つからない。ということで今回は参考までに約1年間使用したレビューを書いておこうと思う。
まずNOA漆はどんな漆かというと、MR漆の開発メーカー佐藤喜代松商店さんが皮膚科の医師と共同研究し、特殊なタンパク質を添加したことで格段に被れにくくなっている、という売り文句の付いた漆だ。もっとも私の場合、普通の漆でもさして被れたりはしないので、購入動機は被れにくさではなく、冬期に修理品が増えたり、大きな修理品が来るとムロを使えなくなるため、MR漆よりも低温低湿で、出来れば多少時間がかかっても室内環境で(部屋全部をムロ状態にしなくても)十分に硬化する漆が無いかと佐藤喜代松商店さんに電話で問い合わせ、「それなら、お客さん、これですよ」と勧められて買ったというのが概ねの経緯である。また、この時、硬化時の硬度がMR漆よりも高いという事も教えて頂き、それも購入の後押しになっている。佐藤喜代松商店さんが言うには、NOA漆で金継ぎ講習をやっている先生もいますよ、って話。これにはちょっとだけ疑問なのだが(理由は後で記述する)。
さて、では実際に使ってみたレビューだが、まず、売り文句の被れにくさ。これは先の通りでよく分からない。ただし、ファンヒーターを点けて閉めきった部屋で、結構な量を長時間使っても肌がピリピリしてこないので(普通の漆は被れの有無と関係なくピリピリしてくる)、確かに被れにくいのかもしれない。
次に、使い勝手。添加したタンパク質の影響により、かなり粘性が高くドロっとしている(添加タンパク質の影響であることは、佐藤喜代松商店さんからの説明で確認済み)。そのタンパク質が何かは教えてもらえなかったが、漆の被れ防止に卵の白身を混ぜるという話を、昔どこかで読んだ記憶があるので、もしかしたら似たようなゲルで添加しているのではなかと思う。この辺はサラっとした感じのMR漆とは極めて対照的だ。
それと、通常のクロメ漆も似たようなドロっと感があるが、このNOA漆はチューブから出して少し置いておくと分離したような見た目になる性質がある。試しに注意深く分離したものを取り分けて塗ってみたら硬化状態に違いは感じられなかったので、この分離(油滴のような斑点状で、斑が薄く周りが濃い極端な透明度の差が出る)が何を意味するのか未だによく分からないが、もしかしたら漆の酸化速度の微妙な差が色として現れているのかも知れない。錆漆を作って少し置くと、酸素に触れ早く硬化した表皮が濃く、ゆっくり硬化する内側が薄い色になるが、それに似た硬化速度差が生じていると考察することは出来る。
NOA漆はそのまま塗ることも出来なくはないが、やはり粘性が高すぎて漆の伸びが悪い(つまり、長い線が引けない)のと、分離をもう少し抑えたいという理由で、私は使用前に無水エタノール(消毒用に用いるアルコールの類)で希釈し、キムワイプという長繊維紙で濾してから使うことにしている。それでもわずかに分離の色変化は出るが、そのまま使うよりは緩和されているので気分的に何となく安心(あくまで気分的に)。ちなみに無水エタノールを使用するのは、少量でも希釈力が高い=揮発が早いことが、その理由だ。希釈に使う揮発性油の揮発速度は漆の硬化速度を左右する。テレピンのような揮発が遅い油は、漆の硬化も遅くする。元々、硬化を早める目的が第一なので揮発性油もそれを考慮して決めている。
塗った後の硬化は、佐藤喜代松商店さんが勧めるだけのことはあり、冬場の室温20度、湿度50%の環境なら、MR漆の6〜7倍の早さで硬化する。MR漆は塗ってから6〜7時間経過して、やっと金蒔き作業に入る感じ(夜中に塗り、就寝して、朝起きてから金蒔きする作業スタイル)だが、NOA漆は確実に1時間で金蒔きが出来る。ちょっと湿度を上げようと加湿器を付けたら乾いてしまうこともある。それくらい早い。無水エタノールで溶いている事を差し引いても間違いなく5倍速は手堅いと思う。冬に室温で金蒔きをするならNOA漆はお勧めだ。だが逆に、夏場は硬化が早すぎて大きな破損修理には向かないので、私はNOA漆をMR漆で希釈して使っている(NOA漆よりも硬化がゆっくりでサラッとしているからMR漆と混ぜているが、もっと硬化を遅く調整する場合は普通の生漆を使用)。比率は1:1〜1:3。湿度によってだいぶ比率が変わるのは致し方ない。
と、こう書くとNOA漆、万能じゃんと思うかもしれないが、実はNOA漆、一つだけ欠点がある。私が1年程度しか使っていないという前提はあるにせよ、それでも、いろいろな比率で混合実験してみたのだが、どうしても錆漆にした時に乾かない。これだけ低温低湿で硬化するのだから錆漆にしても、きっと硬化が早いだろうと思っていたのだが差に非ず。ダメ元でNOA漆:砥粉=1:9まで作ってみたが、それでも硬化せず(無論、ここまで差を付けると硬化後の強度が低下するので実用性は無いのだが)。表面は固まるのに内部がいつまで経っても固まらない。漆を希釈せず、そのまま使っても当然、固まらない。夏でも固まらない。つまり、漆器の塗装のように薄く伸ばして塗るぶんには問題ないが、金継ぎでパテとして厚盛使用するには極めて不向きなのだ。これが最初に書いた金継ぎ講習でNOA漆を使っている先生もいるという話に疑問を持った理由だ。
よって、パテ用の錆漆に関しては、圧倒的にMR漆に軍配が上がる。前にも記載したがMR漆は硬化時間に差こそあれ夏でも冬でも確実に固まる。もしかしたら、金継ぎ講習の先生は、錆漆については別の漆を使っているのかもしれない。それであれば合点がいく。
それ以外はNOA漆は問題ない。麦漆にしても、硬化が早く硬度が高いので使いやすい。まだ、お客さんの品は実績を考えてMRの麦漆にしているが、NOA漆でも行けるだろうなぁと思う今日この頃。一応、比率を書いておくと、小麦:水:NOA漆=1:2:3(重量比)で、MR漆とほとんど変わらない。水が多めなのは、NOA漆の粘性が高く塗りにくいからだ。まぁ水は加熱している間に蒸発してしまうので、実際はもっと少ないと思うけれど。
以上が金継ぎにNOA漆を使った場合のレビューである。
その他に、何か気がついたら、また追記していこうと思う。
あ、そうそう。もし、NOA漆でもMR漆と同じ速度で硬化する錆漆の作り方を知っている方がいましたら、是非とも教えて頂ければ幸いです。閲覧者がほとんどいないブログなので、砂の中のダイヤモンド探すよりも難しいと思いますけど。

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