チューブの漆を保管する時に

以下は、前回書いた「金継ぎで使う筆について」で頂いたコメントへの返信になります。
レスを書いて返信しようとしたとろこ、長すぎて投稿できず、2回に分けるのも読むのが面倒だと思ったので本記事としてアップすることにしました。というわけで、今回は常体ではなく敬体で記載しています。
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コメントとご質問を頂きありがとうございました。
私の場合、現在は、佐藤喜代松商店さんからMR漆100gのチューブを4ヶ月に1回くらいのペースで購入しています。この程度のペースであれば冷蔵庫に保管する必要は無いのですが、仕事を始めた頃は、修理の発注も今ほど多くは無いため、播与漆行さんから180gチューブと40gの空チューブを購入し、180gは冷蔵庫で保管し、空チューブに30gずつ小分けにして使用していました。(ちなみに、播与漆行さんから佐藤喜代松商店さんに購入先を変えたのは、開発元の業者さんなので質問に明確に答えて頂ける事と、少し安く購入できることが理由です。ラベルが違うだけで、どちらで購入しても物は同じだと思います。)
で、漆を低温下で保管した場合の酵素活性の変化について、ですが。
漆は冷蔵庫(つまり摂氏1度以上)で保存しても最終的に酵素活性が効かなくなることは無いと思います。一般的には常温または冷暗所(台所の流しの下とか)で保管するのですが、漆芸の解説本の中には冷蔵庫で保管すると記載されているものもあったので、冷蔵庫で保管している方もいるようです。冷蔵庫は開封したポテトチップをそのまま入れておいても湿気らないことから分かるように低温低湿度ですから、漆が硬化しない条件としては良場所なのでしょう。
ただし、あくまでも経験的な話ですが、冷蔵庫で保管をした漆は、常温保管の漆と同様の状態に戻るまでに結構な時間を要します。夏場なら1,2日、冬場なら4,5日(常時部屋を温めている場合はもう少し短くて良いと思います)は詰め替えてから静置する必要があり、この静置期間を置かないと、漆の粘度が高すぎて使い難いくく、何よりも硬化するのに凄く時間がかかります。酵素の活性の問題なのか、それとも、漆のゴム質などその他のものが常温時の状態まで戻るのに時間がかかるのか、原因は調べたことがないので分かりませんが、とにかくムロに入れてもなかなか硬化しません。錆漆にしたときには、これが顕著に出ます。きちんと戻れば、常温保管の漆と比較しても硬化速度に違いはありません。
なお、冬に部屋がなかなか温まらず寒い部屋で作業をする時は(趣味だと、そこまで急ぐ必要はありませんけど)、使用する1時間くらい前から、股の間に挟んだり、ズボンのポケットにチューブを入れて温めてから使うと扱いやすくなります。
冷凍庫で保管して漆を凍らせたことはないのですが、冷蔵庫を間違えてパーシャル設定(-5〜0度くらい?)にしてしまい漆をキンキンに冷やしたことはあります。この時は、常温に戻しても硬化するまでに倍以上の時間がかかる漆になってしまったので、仕方なく新しい物を買い、それと混ぜて使いきりました。なので、冷凍庫での保管はあまりお勧めはしません。ちなみに漆は常温保管で2年を超えると徐々に硬化が遅くなってくるそうなので、そういう時には新しい漆と混ぜることで、硬化速度を戻すそうです。コストを考えると倍の料金がかかる計算になりますが、捨ててしまうよりは経済的でしょう。私は2年以上、漆を保管したことがないので本からの受け売りです。申し訳ない。
ところで、漆の硬化というのは酵素活性による作用が非常に大きいのですが、実は、その他にも、漆に含まれる微量の成分(俗にオキと言ったりします)が影響します。500g以上の漆を購入すると大抵は缶や桶に入ってくるのですが、そういう大量の漆は保管中に分離して、オキが下に溜まり、撹拌せずに上澄みだけを使うと硬化が遅くなります。
チューブに入った漆は、缶入りほど分離することは無いと思いますが、それでも多少、オキがチューブ内で沈殿する可能性はありますので、長期保管したものはチューブの裏を開いて撹拌する必要があるのでしょう。私は、そこまでするのは面倒なので、チューブは筆立てに立てるようにして、週ごとにチューブの口を上下返すようにしています。気持ちの問題かもしれませんが、たぶん、使い始めと使い終わりで硬化に差は無いように思います。
なので、冷蔵庫で保管する時にも、チューブは出来るだけ立てて、2週間に1回くらいは上下を返すと良いと思います。それほど面倒な作業ではないと思いますので。