陶器の漂白はほどほどに

陶器の修理では、金継ぎの他に樹脂修理というのもやっている。物凄く分かりやすく言うと、接着剤に色粉(顔料)を入れて器の色に似た接着剤を作り、それを修理に使う方法だ。陶磁器を接着できると記載された工業用接着剤はいろいろな種類が販売されているが、陶磁器の中でも食器の接着に使えると開発元が保証している(要するに人体への影響が無いことを検査された)接着剤は、私が探した所ではアロンアルファ(東亞合成)と食器塗装に使用出来るエポキシ樹脂の2種類しかない。この内、アロンアルファは顔料を加えるとたちどころに硬化してしまうため色合わせすらままならない(ゼリー状は硬化するまでの時間が長いが、それでも色を作れるほどではない)。そのため、使えるのは食器塗装用エポキシ剤の1種類ということになる(とは言っても、これもオープンタイム(硬化するまでに貼り直しが出来たりする時間)は15分弱なので素早く色を合わせられる技術は必要になるわけだが)。
使い方は2種類の原料を規定重量比率で混合、撹拌し、必要であれば顔料を混ぜてから、破片を接着したり、足りない部分に充填する。ほとんどの陶磁器はこれでOKなのだが、過去に何個か、全く樹脂が硬化せず修理が出来ないことがあった。特定のメーカーが作った器だとか、メーカーが違っても原料が酷似しているとか、何か共通点があれば原因を特定しやすいのだが、作っている国もメーカーも原料にも全く共通項が無い。かろうじて似ているとすれば、白磁のような白い器だが破損断面が白磁のように焼き締まっていない(おそらく本焼きとしては1200度以下の低い焼成を行っているものと推測できる)陶器質だということぐらい。ただし、同じメーカーの器でも樹脂が固まる場合もあるので、器の原料や制作過程に問題があるわけではないと思われる。しかも、一番困るのは、樹脂の修理をするまで硬化不良を起こすかどうかが全く分からいことにある。つまり、外見での判断が出来ない。修理が出来ると先方に伝えておきながら、やってみたら修理が出来なかったので返品というのは、仕方がないとはいえ、せっかく修理を依頼して頂いたのに大変に心苦しく申し訳がない。しかも、硬化不良の樹脂をくっつけたまま返却になってしまうので破損直後よりもグレードダウンでの返却になってしまう。何とかならないものかと樹脂開発メーカーにも何度か問合せてみたものの、結局、樹脂が硬化しない原因は特定できなかった。
だが、絶対に接着出来ないかというと実は1つだけ方法が分かった。器を加熱してから修理を行うと樹脂は硬化するようになる(この場合の加熱とは適当に温めるのではなく、窯に入れて300〜400度で昇温することを言う)。ただし、漆の焼付け修理の危険性についてブログで記載したが、加熱によって素地露出部分(破損部分や高台の周りなど)が黒く焦げてしまうという不具合が出るため極めてハイリスクな処置になる。このハイリスクを容認して頂いた場合に限り、修理が可能になるわけだ。(まぁ、ほとんどの方は容認して頂けないが。そりゃ、そんな事を言われたら修理しなくてもいいというのはは当然だと思う。私が器の修理を仮に依頼して、そんな事を言われたら、やはり断わると思うし。)それでも修理をご依頼頂けた、本当に有難いケースから、樹脂の硬化不良の原因を推測することが可能になった。その原因は、加熱して揮発または分解する何らかの成分が器に含まれていたということになる。
では、販売されている時には含まれず、購入後に特定ケースとして含まれてしまう物質とは何なのだろうか?可能性は多岐に渡るので絞り込むのは困難なのだが、結論を言ってしまうと、どうやら塩素系漂白剤が、そのケースに当てはまる事例の1つではないかと思う。もし、それが原因の一旦だとしたら、焼き締りの弱い素地で、白い器にのみ樹脂の硬化不良が起こったことにも説明が付く。つまり、器の白さを維持するため、定期的に漂白殺菌を行っていたことにより、吸水性のある素地に漂白剤(主成分は次亜塩素酸ナトリウムと界面活性剤だと思う)が少しずつ吸収され、残留してしまったということだ。で、一応、硬化不良を起こした器の持ち主の方に問合せてみたところ、やはり、全ての器が漂白を行っていたことが分かった。ただし、定期的に行っているわけではないが修理に出す前に洗浄目的で漂白したという方もいたので、複数回で徐々に素地に浸透したわけではなく、修理直前に使用した漂白剤が何らかのかたちで影響したというケースもあるようだ。
いずれの場合にせよ、陶器には漂白剤が残留し、接着で使用する樹脂に影響を及ぼす可能性は高そうだ。試しに、樹脂に数%の漂白剤を入れて硬化させたところ、硬化不良時と似た常態になったので漂白剤が硬化不良に影響をすることは間違いない。ただし、漂白剤のみが硬化不良を起こすと断定は出来ないので、あくまでも可能性として高いと考えるべきだろう。
まぁ、とにかく、漂白剤というのは漂白後に水に付けて人体に影響が出ないレベルにまで希釈することは出来ても(そもそも水道水には殺菌目的で塩素が入っているわけだが)、樹脂硬化の妨げになる程度は残留する可能性もあるということは、今後、漂白を行う方は頭の隅に入れておいて頂く必要はあるのかもしれない。また、修理を行う側にとっても、そういった漂白を行った器が修理依頼として届くことがあるという可能性は十分、肝に銘じておく必要があるだろう、と思う。