職能の金継ぎは接着するだけに非ず

最近、どうやら金継ぎが流行りはじめているらしいと聞く。金継ぎの認知度が上がる事そのものは、全く問題は無い。いや、むしろ物を大切にしたいという気持ちを形で表せるということが知られるのは歓迎すべき傾向だと思う。
だが、このブログで以前にも書いたとおり、金継ぎというのは、あくまでも自分の愛着ある持ち物を大切にしたいという、内生を基準とする延命処置の手段だ。
決してエコロジーなどという地球規模的なものとは結びつかないし、まして、エコビジネスなんていうものとは無縁だ。(仕事としての金継ぎはアリだと思うが、巨大なマーケットにするのは危険だと個人的には考えるようになっている)が、どうも、そうした事と結び付けたい人はいるようで。金継ぎのハウツー本を見て、壊れたものをくっつけて、ちょっと金色にすればいいんでしょ。それなら俺にも出来るわ。と平気で言う人も中にはいる。
しかし、実際に始めてみれば分かることだが、物をくっつけるというのは非常に難しく、且つ難解(このブログでもいろいろと書いているが)であることに加え、実は修理業というのは、付けるだけではなく、取り外すという知識も必要になってくる。というのも、依頼の半分弱は、自分でくっつけてみたけど上手くいかないのでやり直してほしいというところから始まるからだ。そんなのは出来ません、と言ってしまえば楽かもしれないが、仕事となるとそういうわけにもいかない。
天然成分あるいは天然に極めて近い素材で接着してあれば、除去はそれほど難しくない。ほとんどの場合は、湯で煮て取り外してから高圧蒸気で残留物を吹き飛ばせば、接着箇所は綺麗にできる。漆であっても同じで、作業時間の差こそあれ、ほとんどの場合は同じ手順を繰り返すことで除去することが出来る。火傷と高圧蒸気を吸い込まないように注意すれば、その他に心配することはほとんどない。
しかし、石油合成のもの、つまり、市販の強力接着剤を使用した場合は、とにかく除去が難しい&面倒くさい。冗談ではなく、除去には命を掛けるくらいの気持ちが必要になってくる。
成分表に、「エポキシ、シリル化ウレタン、変性シリコン、変性アクリル、シアノアクリレート」のどれかが書かれている時は煮てもビクともしないので、この手の接着剤だと分かった場合には、除去のためにかなり強い有機溶剤(アセトン、トルエン、ヘキサンなどのシンナー類)に漬けて接着剤を溶かしたり弱らせたりする必要が出てくる。ぐい呑みのような小さな器ならば、それほど使用量も多くないが、大皿やツボとなると使う有機溶剤の量もかなり多くなる。この時、きちんとした知識を持ち、専用の防毒マスクや手袋をして適切に扱わないと、翌日は必ず、めまい、嘔吐、悪寒、皮膚のただれ、体の激痛など、とにかくガタがくる。有機溶剤は揮発して粘膜や皮膚に付着、浸透し、体を犯すやっかいな代物なのだ。
人間には個体差というものがあるので、溶剤に強い人というのも中にはいると思う。まぁ、そういう人は天性の修理屋だと思うが、多くの人は有機溶剤で大なり小なり体を壊す。私も最初は有機溶剤の怖さを知らず、また、原因が有機溶剤であることにも考えが及ばなかった為、皮膚科や内科や頭痛外来へ通ったりして、個人で修理業を始めてからはストレスで体が弱くなったのかなぁと思っていた。体の不調が溶剤によるものだと分かったのは、かなり後になってからだ。
更に、有機溶剤で接着剤を除去した後は、器の素地に溶剤が残留しないよう除去処理をする必要も出てくる。お湯だけなら天日で乾かしたりドライヤーで温めれば何とかなるが、有機溶剤の場合は中和のためにさらに更に薬品が必要になることもある。素地に溶剤が残留していると、漆が死んで固まらなくなり、修理作業に支障をきたすからだ(実は、この失敗も最初のころは結構やった)。
かように「修理する」とは、単に壊れたものを接着するということだけではなく、時には、接着してあるものを剥がすことも出来なければならない。それ相当の知識と経験(つまり手間と時間)は必要になってくるのだ。金継ぎ修理が仕事になると思っている方は、このことも忘れずに。それなりの覚悟を持って頂く必要があるのは言うまでもない。

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