修理の最初に気をつけること

もう1月も末ですが、年明け最初の更新。今年もよろしくお願いいたします。
とはいえ、さすがにこれだけ更新しないと、閲覧数はゼロなんだけども。
さて、2012年最初の投稿は、修理を始める時に初心者が間違えやすいことを書きたいと思う。
というのも、この前、たまたま本屋で手にした雑誌に金継ぎのことが書かれており、おそらくライターさんが何冊か本を読んで纏めたのだと思うが、説明が相当にいいかげん。
過去、何度か雑誌の取材を受けて、ライターさんへきちんと修理内容を伝えることの難しさは重々承知しているので、まして取材をせずにライターさんが記事を纏めればこうなるのは予想ができる。
外国映画のトンデモ日本描写と同じで「あはは、なんだよこれ」と笑って雑誌を閉じて終わりにしたくなったが、実はそうもいかない。というのも、本を見ながら自分で修理をしてみたが上手くいかないので続きをやってほしいという依頼がくることがあるからだ。
はっきり言ってしまうと、そういう修理の続きをやるというのは無理。あるは無茶。明らかに根本的なところから間違えていることが多過ぎるからだ。
よって、こういう場合は修理材をすべて除去し、できる限り壊れた直後と同じ状態まで元通りにすることから作業は始まる。修理するよりも、この作業がおそろしく高難度で面倒だったりする。こうした作業をしなくても済むように、閲覧数は少ないが、ここできちんと記載しておこうと思う。
まず一つめのポイント。
器の修理が書かれた雑誌や本には、小さな破片から接着していくと記載されたものが多い。おそらくある本の元ネタを転載していくうちに定石化したものと思われるが、この考え方は50%正しく、50%が間違えている。
器の修理を開始するとき、最も大切なのは、どういった状況、順番で器が破損に至ったのかを推理することだ。器と器がぶつかって壊れたのか、それとも床に落ちて壊れたのか、あるいは物とぶつかった後に床に落として割れたのか。床に落ちて割れる時に器はバウンドしたのか。そうした状況を器の破損状態から読み解く必要がある。
そして、頭の中で壊れた状況の再生、逆再生を繰り返しながら、接着の順番を組み立てていく。概ね破損の逆順で接着を行うと矛盾が起こらないので、結果として小さな破片から接着していくほうが良い場合が多い。というのが正しい見解。
そこを見誤って修理を始めると、最終的に二進も三進もいかない袋小路に入ってしまう。
例えば、大きく十文字形に壊れて破片が4つになった器があったとする。小さい破片が2つと大きな破片が2つ。この場合、最低でも、二通りの壊れ方を考えることが出来る。解説するので頭の中でスローモーション再生してみてほしい。
一つは、器の口辺がぶつかり、ぶつかった接点からヒビが入る。さらに、そのまま同一箇所に大きな圧力が掛かることでヒビが伸びて2つの破片となる。各々の破片がそれぞれにもう一度、何かにぶつかることでヒビが生じて2つに割れる。これで合計4つの破片が生成された場合。
もう一つは、器の口辺に圧力がかかって楕円形に器が歪み、その歪みによって、ぶつかった箇所とは違うところからヒビが生じる。歪みに耐えて破損は免れたと思った矢先に、ぶつかった接点への衝撃に器が耐えられずヒビが生じ、2つのヒビが直交し、衝撃によって破片が4つになった場合。
つまり、こうした4片の破片が生じた場合、ぶつかった箇所から先にヒビが入ったものか、そうではないのかで、破片の合わさり方が異なってくる。単純に小さな破片から接着するのではなく、この順番を逆再生的に接着していかないと、最終的に矛盾が生じて接着の誤差が大きくなり取り返しの付かない状態になることも考えられる。
より片数が多い修理になると、こうした接着の順番を決める作業はより複雑になっていくため、器の観察と接着順を決めるまでに時間を要する。場合によっては一日中考えることもある。
また、接着を開始するときにも見落としがちな点がある。ポイント2つめは、器の温度。
どんな修理剤も同様で、硬化を起こすには温度管理が重要なファクターだ。必要温度以下では硬化が起こらない。化学変化には、それ相当のカロリー(熱量)が必要となる。
漆の硬化には酵素活性のために気温20〜25度を維持しなければいけないと書かれた金継ぎハウツー本は多い。多いというよりもすべてのハウツー本にはそれが記載されていると言っても過言ではない。しかし、これも50%は正しく、50%は間違えている。
実践的には、接着する対象物が漆の硬化に必要な温度になっていることが大切で、その安全圏が気温20〜25度だと説明するべきだろう。特に陶磁器を接着しようとする場合には器の温度に気をつけなければならない。気温安全圏で静置すれば結果として器が温まるが、ここで見落としがちなのは静置する前、つまり漆を最初に器に付ける時、器が適切な温度になっていないことがあるということ。それを気にせず作業を始めてしまう初心者は多い。
特に冬場、壊れた器を納戸にしまっておき、暇が出来たので金継ぎをやってみようと、納戸から出した冷たい器で修理を始めてしまうと接着不良を起こしたりする。オーブンで器を温めたりする必要は無いが、暖かい部屋に最低でも1日は置き、器に触れて冷たくないかどうかをきちんと確認してから接着を始めなければ十分な接着強度は得られない。
また、接着後に大切なのは気温を20〜25度に維持することではなく、器の温度を接着した時よりも下げないことだ。器を置いた床面が冷たければ、器は冷えて漆の硬化が悪くなる。私は、こうした危険があると思われる時は電気アンカの上に器を置いている。こうすると温度が安全圏温度域より下がっても器が温まっていることで接着強度は十分に得られる。
極端なことを言えば、漆ムロを作らなくても、器が温まっているように工夫をすれば部屋で漆の硬化は可能だ。
長くなってしまったので、本日はここまで。
また時間が出来たら、見落としやすい修理のポイントを書こうと思う。

1件のコメント

  • AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0) AppleWebKit/535.7 (KHTML, like Gecko) Chrome/16.0.912.77 Safari/535.7
    明けましておめでとうございます。
    今年も楽しみに待ってます。
    前回、レイアウトが壊れてからなかなか更新がなくて心配してましたが、安心しました。
    金継ぎは難しそうでやったことがありませんでしたが、ほんとに気をつけるべきポイントが多いんですね。

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