漆が乾く、ということ

このブログで漆が早く乾くと書いたからではないと思うが、ここのところ1週間で仕上げてくれとか、クリスマスまでに仕上げてくれという問い合わせが相次いでいる。どうも漆の硬化が、市販の接着剤のように短時間で終了すると思う人が多いようだ。趣味で金継ぎをしている人や勉強不足の骨董屋(特に仕入れた商品を自分で直せると簡単に考える骨董屋)さんで、漆と接着剤を混同している人が少なからずいるようなので、追記することにした。
漆は、大雑把に言うと二段階で硬化が進む。
漆の中の酵素が水分と酸素を利用し、ウルシオールという漆の主成分を線構造的に結合させるのが第一段階。
次にウルシオールが酸素と直接結合し、網のような立体構造を形成するのが第二段階だ。
つまり、漆には仮接着期と本接着期の2シーズンがある。第一段階での硬化は水分を利用して、とにかく早めに漆を安定させようとする。そして安定期に入ると、今度は水分を利用しない純粋な酸化作用により漆はゆっくりと硬化していく。前回、私がブログに記載した促進は、このうちの第一段階に関するもので、まだ硬化は完全に安定していないが耐水性およびそれなりの硬度があり、修理作業を進める程度なら問題はないというレベルでの話である。
だから仮に7日間で作業が終わったとしても、8日目に器を使用したら再破損は必至だ。特に、油による溶解は起こりやすいため、接着部分に炒め物の油が付いたりすると接着強度は落ちてしまう可能性が高い。もちろん長時間水分と接していても同様のことが起こる可能性がある。よって実用するなら、本来、硬化の第二段階が進んで漆が安定するのを待たなければならない。ちなみに第二段階の硬化が本当に安定するのは理論上180日程度、つまり半年前後と考えられている(私が試した限りなら気温など条件に左右されるが、MR漆はおおよそ3ヶ月程度で接着箇所を指で弾いたときの音が高音に変化するので、おそらくそのくらいが安定開始期と思われる。まぁ、どちらにしろ、結構な時間がかかるわけだ)。油絵をやったことのある人ならば分かると思うが、油絵具というのは顔料を乾性油で練ったもので、油が酸化重合して硬化するため、乾くにはとても時間がかかる。漆の主成分であるウルシオールも油の一種なので、油絵具同様だ。
なお、厚めの磁器などは、接着した素地は嫌気の(気体と接触しにくい)ため素地内の硬化は理論値よりも遅くなる。漆の硬化は徐々に進むものなので、実際に完全硬化するには何十年もかかると書かれた本もある。何十年は言い過ぎのように思うが、指触で硬化が確認出来たとしても化学的には硬化反応が継続中である可能性は非常に高い、ということを忘れてはいけない。
ちなみに、第二段階の硬化では漆が水分を利用しないため、ムロなど特殊な環境に置く必要なく、普通に部屋の戸棚にでも静置しておいて問題はない。(ただし温度は零下にならないように。)

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