何としても漆を乾かす

冬になると毎年困るのは、湿度が低いこと。肌が乾燥するなんていうのは大したことではない。一番の問題は傘立てなどムロに入らない大きな物の金継ぎは室内で硬化させる必要があるが、その時に漆が硬化しないことだ。硬化しないと仕事にならない。
漆は気温25度以上、湿度80%以上が硬化条件とされる。無論、それ以下でもゆっくりと硬化してはいくが、想像を絶するほど遅い。私が金継ぎの修理で使っているMR漆は、一般的な漆よりも酵素が多いため、気温20度以上、湿度50%以上が硬化条件なのだが、冬の平均湿度は35%前後。話にならない。濡らしたバスタオルを掛けたり、水を入れたバケツを部屋に置く等、自然蒸発ではたかが知れているので、やはり加湿器で強制加湿しなければ50%を超えるのは難しい。
現在販売されている加湿器は大きく分けて4種類ある。加熱式、超音波式、ハイブリット式、気化式だ。どれも一長一短あるわけだが、もし、これから漆を扱おうと思っている人は、絶対に加熱式を勧める。実は私、すべての加湿器を持ている。趣味で買っているわけではなく、いろいろ失敗を繰り返して、結果すべての加湿器が揃ってしまったというのが正しい。それだけに、自信を持って加熱式をおすすめできる。
最初に買ったのが超音波式。水の粒子が細かく噴霧量が多いという言葉に釣られて買った。たしかに噴霧量は多いのだが、塩素やミネラルも一緒に空中散布させるので、狭い仕事場の湿度が上がってくると私の場合、どうにも体調が悪くなるので断念。
次に買ったのがハイブリット式。分かりやすく言うと、濡れタオルにドライヤーで風をあてて水分を蒸発させる仕組みで、冷風と熱風を加湿器が勝手に切り替えて湿度調整をする。最初はとても調子が良かった。しかしハイブリット式は、フィルタ(濡れタオル)に水中のカルシウムなどが付着して徐々に石のように固くなり、極端に蒸発量が減って加湿できなくなるので、クエン酸を溶かした40度前後の湯に30分漬け込んでそれらを溶かしてから、丁寧に水洗いをするという手入れが必要になる(大体、2週間に1回)。しかも、説明書にはフィルター寿命は3年程度と書かれているが、私のように部屋のコンディションを常に一定に保つため連続運転をさせていると1年しか持たず、わざわざ取り寄せで買い換えなければならない。明らかにコストパフォーマンス悪すぎである。
そして、気化式。これもフィルターに風を当てて蒸発させるタイプだが冷風のみである。基本的に手入れ不要と書かれていたので、ハイブリットと同じ方式で手入れが要らないなら、これがベストだろうと購入。たしかに加湿はするし、手入れもハイブリットほどではないが、冷風で水を蒸発させる必要から、ファンの音がやたら大きくてうるさい。また、加湿中は冷たい風が出るので、部屋の温度が上がりにくくなる。よく考えたら、夏に買った冷風扇と同じ構造だから、そりゃ温度上がらなくなるわな。湿度を上げるために、部屋の温度が下がっては本末転倒である。
ということで、今年、加熱式を購入。ストーブにヤカンを乗せて強制加湿させているのと同じなので、とても強力。音もほとんどしないし、手入れも加熱皿を軽く拭くだけなので楽である。う〜ん、最初から加熱式にしておけばよかった。但し、電気代が高い。1ヶ月フル回転させると加湿器だけで5000円アップする。しかし、背に腹は変えられない。おかげで傘立てのような大きな物も、夏ほど早くはないが修理が可能だし、加湿で余計な心配をする必要もない。
なお、それならストーブにヤカンでいいじゃないか、という突込みは無しである。仕事部屋は狭くストーブは換気が必要になるため、換気のたびに湿度変化が起きては困るのだ。
ところで、気温や湿度を頑張って調整しなくても、漆の硬化を早める方法はある。仕上げに使う呂色漆に水を加えてよる練ることだ。MR漆ではこの効果は非常に顕著である。わざわざ水分を除いた漆なのに、また水を加えたらダメじゃないかと思う人もいると思うが、逆だ。空気中から取り込む水分を先に加え、よく練って漆中に分散させると、硬化は早くなる(丁寧にやらないと気泡が出来てしまうので、ちょっと練り方が難しいが)。
空気中から取り込む水分を先に足しておけばいいじゃないかという単純な理由で見つけた方法なのだが、この前買った漆の本に、クロめた漆に水を加えて練り直す「くろめ返し」により、漆の重合が促進すると書かれていて、おぉ、そういう名前だったのかと驚いた。
更に硬化を促進させる方法もある。木炭など多孔質カーボンを漆に入れて練り直す。私はこれを加水炭漆と勝手に呼んでいる。これは純粋に私が見つけた方法だと思っていたのだが、違う漆の本に、古代の発掘品には、漆層の下地として木炭を入れた漆が使われた形跡があり、これは失われた漆の技法と思われるという記述があり、何千年も前にやはりやっている人がいたのか、と驚いた。古代にも、きっと低湿度条件で何とか漆を固める方法を考えてた人がいたのだろうと思った。
水分を加えて練りなおしても、硬度、密着性、撥水性が落ちるということは無いようだ。
温故知新。その奥深さを改めて想う。

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