火焔式土器

友人から抹茶茶碗の制作を頼まれ、さて、どんな茶碗にしようかと考えながら陶磁器の本をペラペラとめくっていたら、目に飛び込んできたのが、火焔式土器の写真。あぁ、この模様を茶碗に付けたら面白いかもしれないと思い、早速、本屋で土器の写真集を買ったり、ネットで画像を集めたりしていて、ふと、気づいたことがある。
火焔式土器って、器というよりはむしろ天地を逆にして台座形と言ったほうが良くないか?ということ。中が空洞の器形であることや、炭化物の付着から、煮炊きに使った器であることは疑いないとされているのだが、はて、本当に断定してしまって良いのだろうか。形状からすれば、あれは明らかに物を入れて使用するとは考えにくい。仮に使ったとしても、火を焚くドラム缶のような使い方しか出来ないだろう。
まぁ、古代の焼き物だ。どんな使い方をしたかは、気楽に推測して楽しむのが一番だ。そこで、さらに突っ込んで考えてみる。
火焔式土器が発見された所では、対になるように、王冠型土器というものが発見されているらしい。どちらも、表面に流水状(火焔式土器というくらいなので火焔状が正しいのかもしれないが、私はどちらかというと、流れる水の動きを模しているように思うので、あえて流水と書かせてもらう)の文様が施されているので、同じ使い方をした器であろうというのが大方の見方のようだが、ちょっと待ってくれ。王冠型土器は、火焔式土器よりも更に台座に近い形をしているではないか。構造的には明らかに台座だと断定しても良い形状をしている。しかも王冠型土器の突起した部分は、火焔式土器よりも、足として使用することを前提として作りましたと言わんばかりの平坦さを持っている。これが台座でなくて、何だというのか、と言いたくなってしまう。
ところで、素焼きの器というのは本焼の器に比べると強度が落ちるため、材質として脆いと思われがちだが、局所的に強い力を加えなければ、かなりの強度があって、ちょっと物を乗せる台くらいの使用は十分に可能だ。窯元へ行くと、たまに、施釉前の素焼き素地が高く積まれていたりする。重さを受け止められる適切な箇所に力が集中していれば、かなりの量の器を積んでも下の器は割れたりしない。持ち上げる時に、変なところを持つと壊れるが、このような外部からの力が加わらなければ、素焼き素地というのは壊れることなく形を保つことが可能なのだ。
というわけで、王冠型土器を台座だとしたら、火焔式土器が対になって発見されるのは合点がいく。いきまくる。王冠型土器の上に乗せるために作った物、それが火焔式土器なのではないか。そう、火焔式土器と王冠型土器は、対ではなく、上下の関係なのだ。上に乗る形だから、口辺がギザギザでもOK。いや、むしろ見栄えから考えればギザギザなほうが格好良いじゃないか。
では、王冠型土器の台座に乗せられた火焔式土器。これは一体、何なのだろう。当然でてくる、この疑問。
そこで、土器の内側には煤や炭化物が付着しているという事実。そして、最初に書いた、火焔式土器は火を焚く時のドラム缶くらいにしか使えないという発想が役に立つ。
天地を逆にして置いた王冠型土器の台座、その上にドラム缶代わりの火焔式土器。何かの形に似ていないか?おぉ、これ、もしかしたら茶香炉なんじゃないだろうか。台座と考えていた王冠型土器は、台座というよりも窯なのだ。もう少し分かりやすく言うと、薪(熱源)、その上に王冠型土器、その上に火焔式土器、その中に香りの出る草木。あっという間に、大きな茶香炉の完成である。
発達した文化には、煙の文化(あるいは香の文化)というものがあると思う。線香や香木など仏教文化はその最たるものだが、アジア圏のみならず煙(香)を利用した集団形成というのは、古代から見られるものだと思う。当然、あれだけの文様や物品を作れる高度な文化を持つ縄文時代ならば、煙(香)というファクターは何らかの形で生活の中に用いられていたであろうことは想像に難くない。その発生装置として、両土器が使われたという想像もまた何ら矛盾は無いと思う。そうすると、先に、流水模様と言ったが、もしかして、あの模様は煙かという想像も可能になる。
ところで、そういった観点で両土器を見ると、実は、現在区分されている火焔式土器と王冠型土器は、煤の付き方なども加味して、もしかしたら逆区分になるのではないかというものもある。用途不明な器だから、形状のみで両土器を区分するというのは賢明な方法だと思うが、試しに上下を逆にして置くのが正解という仮定で見なおしてみると、火焔式土器と王冠型土器(さらに、その派生と思わえる土器も含めて)は、全く違う区分になっている可能もある、のかもしれない。
<追記>
両土器の側面に付いている取っ手と思われる穴の空いた突起はどう説明できるのか、というご質問を頂いた。
カップの取っ手を思い浮かべてしまうと、何のために付いているのか疑問に思うかもしれない。でも、土器の上下の関係を考えると、案外簡単に推測できるのではないだろうか。あれは人が持つための機能としてあるのではなく、上下の土器を紐や縄で結んで安定させるための穴だったのではないかと思う。穴の位置や数を見ると、整合性があるように思うのだが、いかがだろうか。