樹脂修理の話(その1)

私は自分で生豆から焙煎し、ハンドドリップで毎日3杯は欠かさないほどの珈琲好きだ。2月の下旬から花粉症と風邪のダブルパンチを食らって全く鼻が効かない上に、花粉症と風邪の薬でフラフラになっているのだが、それでも珈琲を煎れて飲んでる。
そこまで珈琲が大好きな私に、降って沸いたように訪れた珈琲試練。頭フラフラに加えて頭が痛い。
先日、器の再修理の依頼が来た。私が直したものなのだが、修理箇所が黒くなってきたので何とかしてほしいという話。てっきり金継ぎの金が剥げたのかと思って、金の貼りなおしをすればいいだろいうと思って再修理を受けたのだが、届いた物を見てびっくり。金継ぎではなく、樹脂で修理をしたもので、しかも修理箇所がすべて茶色く変色している。樹脂は性質上、そのまま放置すると徐々に黄変する。だが、それはとは全く違う。加熱で焦げたという感じでもない。一体、何が起こったのか。
そこで持ち主に話を伺ったところ、この方も珈琲が非常に好きで、仕事中は常時この器に珈琲を入れて飲んでいるそうで、使っている間に白かった樹脂が茶色くなったという。なるほど、これは珈琲の色素が沈着したということか。しかし、私が現在使っているカップも、テストを兼ねて樹脂修理を行っているのだが、私のカップは黄変の兆候はみられるものの、ここまで茶色の沈着は起こしていない。
私が使っているカップと、再修理の器の違い。それはすぐにピンときた。たぶん珈琲を入れて放置している時間の差だ。私は基本的に珈琲は熱いうちに飲む。ハンドドリップで煎れた珈琲が冷めても上手いのは承知しているが、やはり煎れ立ての旨さには適わない。それに、自分のハンドドリップがどれくらい上手くいっているかを知るには、熱いうちに飲むに限る。よって、樹脂とカップが接している時間は長くても10分以内。接する時間が短ければ、色素沈着は起こりにくい。そこで、試しに別のカップの内側に樹脂を塗り、24時間硬化させた後、珈琲を入れて3日ほど放置してみたところ、案の定、樹脂に珈琲の色素沈着が現れた。しかも、一度色素の沈着が起こると、熱湯で洗っても、高圧蒸気を当てても色は落ちない。表層的な問題ではなく、完全に色が浸透し、固着しているのだ。まぁ3日間も珈琲を入れっぱなしということはないと思うが、単純計算で1日2時間入れっぱなしにしたとして、36日で72時間。十分に確証の持てる数値だと思う。
そこでメーカーに問い合わせてみたのだが、メーカーは熱湯による耐熱試験のみで、珈琲など色のついた液体での試験は行っていないらしく、最初は「う〜ん、そんなことが起こるんですか」みたいな返答。それでも突っ込んで話をしたところ、樹脂に含まれる成分によるものだろうという推測はできるが、これを回避するための策は全く考え付かないという。樹脂メーカーは、「陶器の接着につかえる」のと「陶器を接着して使える」ということの違いを理解して樹脂を販売してはいないということだ。
実用陶器の修理の難しさがここにある。陶器を接着できると使用説明に書かれた接着剤は多い。だが、それは接着できるというレベルであって、食品衛生基準試験に合格しているものとなると、数は非常に少なくなる。しかも、食品衛生基準試験は、安全性を確かめるための試験であって、対食材食品の試験というのは行わない。おそらく、そこまで試験をしているところは皆無だと思う。当然といえば当然のことで理由は簡単。陶磁器は使い捨てが主流であって、陶器の修理をやって日常使用をしていこうと真剣に考えている人間は、理由はどうあれ、ほとんど存在しない。まして、それを眼中に入れて接着剤の開発をするなんてことは考えもしないはずだ。
と、愚痴を言っていてもしかたがない。とりあえずメーカーに希望が持てない以上、この回避策は自分で考えねばならない。こうして、樹脂を試し買いする日々が始まった。(続く)

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