グルテン漆情報

この前、洗面台の下にあるはずのブレーキパーツクリーナー(車のブレーキを洗浄するスプレーだが、強力脱脂できるので器の脱脂にも使っている。もちろん、脱脂した後はきちんと洗浄している)を使おうと思って、ゴソゴソと探していたら、奥の方に小さなバケツを発見。とり出して蓋を開けて見たら、水の中に湯のみが一つ入っている。ありゃ、これ何だっけなぁと思って記憶を辿ってみたところ、6月頃にグルテン漆の耐水耐久実験用に金継ぎ(金は乗せていない)して水没させた湯のみだったことを思い出した。かれこれ3ヶ月以上は水没していたことになる。前にも書いたがグルテン漆はガラス面に塗布して水没させると約40時間で剥離するので、3ヶ月以上水没させたら、たぶん接着箇所は取れているだろうと思い、そっと持ち上げてみたのだが、全く壊れる気配がない。試しに指で押したり引いたりしてみたがビクともせず。更に金属棒で軽く叩いてみたら、結構、硬質な音がするので、どうやら接着箇所は透き間なく密着している模様。
陶器なので素地が多少給水しているはずなのだが、物と物で挟み込むと、グルテン漆は水没状態でもかなりの接着強度を維持するということが分かった。これなら、花器など常時水を入れておく器の修理としても使えるかもしれない。それはさておき、3ヶ月以上の水没にも耐えるということは分かったので、ほん陶でグルテン漆の正式採用することにして、サイトの書き直しを行った。
なお、その湯呑は、さらなる接着持続実験として水没続行させてある。接着箇所が取れたら、また報告したいと思う。
ところで、私が日常的に使用している飯茶碗は、実験も兼ねて金継ぎ修理したものだ。金継ぎの耐久性を見るため、基本的にはスポンジと洗剤でガシャガシャと洗った後、布巾で拭いたりせずに、そのまま水切り箱(っていうのかな?)に入れてしまっている。要するに、かなり粗雑な扱いをしているわけだ。自作の飯茶碗で東京に居た頃から使っている愛着品なのだが、耐久実験のために、あえて心を鬼にしてこうした試練を器に与えている。
で、先日、この修理した口辺の一部が欠損しているのを発見。欠片が見つからないので、どの段階で欠損したのか分からないが、欠損箇所を見たところ、素地と密着する部分は残っており、取れたのは釉薬と接する部分であることが分かった。これまでの漆の密着データからすれば、当然の事と言える。現在、欠損充填修理は、漆と砥粉と水を混ぜた錆漆を使用している。このうち、水はなくなってしまうし、砥粉は水分により粘性は出るが、水分がなくなれば砥石の粉になってしまう(この性質を利用し、砥粉を使った砥部焼きは生まれるわけだが)ので、接着のアンカー効果に対してあくまでも補助的な役割りである。よって、実質的に接着に関与しているのは漆だけと考えていい。素地部分は漆のアンカー効果が発揮され、ガラス状である釉薬面ではアンカー効果が弱く、結果、衝撃でそこだけが取れたということだろう。納得である。
しかし、納得はできるが、陶器の修理屋としてこれを納得で済ませるわけにはいかない。陶磁器修理専門を看板にする以上、この打開策を打つ必要がある。何とか良い方法はないものか。すぐに気付くのは、錆漆に小麦など粘性のあるものを混ぜて粘着力を上げるという方法。しかし、小麦(グルテンを含む)を入れた錆漆というのは、扱いにくさに加えて、不要部分を研磨する際の表面の状態が、砥粉だけを使った錆漆に比べると非常に汚い。この汚さを回避するために漆屋さんは、その後、漆を何層も重ねて調子を整えていく。しかし、木工下地の場合は層を重ねることで被膜強度を上げて木材への負担を減らすなどのメリットに繋がるかもしれないが、陶器修理の場合、積層によるメリットというのはあまり無い。極端な話、積層させなくても錆漆がしっかりと修理箇所に密着してくれれば使用上の問題はないわけだ。第一、不要な積層処理の手間が修理料金に上乗せされていくというのは、日常食器を気軽に直して使うという、ほん陶の事業コンセプトには百害あって一利なし(そこまでは言い過ぎか?)。現在使っている錆漆の性質を変えず、更に密着性を高めるためには、どうしたものか。
困った時のホームセンター散歩。そこで透き間テープを眺めていて閃いた。透き間テープは、耐水耐摩耗性スポンジ層の片面に粘着層を付けたテープ。使用する場合は、離けい紙を剥がして貼りつけることで透き間埋めを行う。これを応用してはどうか。つまり、素地と錆漆の間に粘着性の高いグルテン漆を挟み込む。先に記載した通り、グルテン漆は物と物との間に挟み込むと接着維持時間を延ばすことができる。グルテンの繊維構造は、透き間テープの粘着部分とおそらく同じ効果があるはずだ。
そこで早速、作業をしてみる。断面に薄くグルテン漆を塗り、表面の濡れ色が取れるまで少し乾燥させてから、錆漆を上に乗せてみる。おぉぉ、やってみて気付いたのだが、断面に直接、錆漆を乗せるこれまでの方法に比べて、グルテン漆を塗った部分にピンポイントで付けることが出来て、作業がものすごく楽。修理箇所の周りも汚しにくい。糊を塗って、その上に物を接着させるという単純な発想なのに、どうして今まで気付かなかったのか。
これで接着力が今までと同等、あるいは今まで以上であれば申し分ない。おそらく接着力が落ちるということは考えにくいので、たぶん、この方法もほん陶で正式採用にするような気がする。まだ錆漆を付けた段階なので、その後の経過については追って連絡したいと思う。