直せない器

やっと左目の充血が収まって白目がちょっと見えてきた。亀裂も少しずつ塞がってきているということで、あぁ良かったなぁと思っていたら、今度は寝違えて左が向けなくなった(笑)。一難去ってまた一難って感じか。人生はテトリスだなぁと感じる今年の年末。
体のことばかり書いてもしょうがないので、本日は、また陶器修理の話。
私は基本的に、どんな陶磁器も何とかして直すというのを仕事のポリシーにしているのだが、最近請け負ったマグカップはこのポリシーを覆すものだった。中国製の量産品で、最近では100円ショップなどでも見かける白磁器で、焼き物とは思えないほど発色の良い模様がついているのが最大の特徴だ。中には写真のようなリアルな画像が付いていることもある。焼き物というのは、色を定着させるために最低でも700度以上の加熱が必要なため、大抵の色素顔料は色が無くなったり変色したりして、ビビットな色を斑なく出すのが非常に難しい。青や緑に関しては、大倉陶苑が開発したと言われる蒔絵技法の応用で可能になったらしいが、赤や黄色はものすごく難しい。しかし、この手のマグカップはビビットで斑のない量産を可能にしている。正直、技術ってのはすごいなぁと感心していたのだが、このまえ請け負ったこの手のマグカップの修理で、なぜ、こうした絵付けが可能なのかが分かった。
修理で使用するアクリル樹脂は、メチルメタクリレートという溶剤で溶かして使う。ヒビ埋めなどは、この溶けたアクリル樹脂を流し込むことになるわけだが、修理中、模様に付着してしまった樹脂をティッシュで拭いたところ、色が落ちた(泣)。えぇぇ!最初は何故に色が無くなったのか全く理解できず。何しろ焼き物と言えば、ガラス粉に顔料を入れて700度以上で焼き付けてあるものだと、私は勝手に思い込んでいる。色ガラス層が、こんな溶解力の弱い溶剤で溶けてしまうはずがない。しかし、よく見ると、この模様、全て印刷である。もう少し詳しく書くと、薄い樹脂皮膜におそらく特殊インクで色を着け、それを器に貼り付けてあるというもの。シールみたいな感じだ。インターネットで調べたら、200度以下で加熱して密着させているらしいので、耐水性や熱湯への耐熱性は問題ないらしいが、それでも樹脂は樹脂である。溶剤で溶けてしまうのは当然といえば当然。
完璧に修理失敗である。私の無学ゆえに、お客様には取り返しの付かない状態にしてしまったので(ちなみに、これは100円ショップの器ではなく、海外で買った思い出の品)、お詫びの電話を何度かしてみたものの、連絡がつかず。修理を生業としているはずなのだが、こればかりは修理も出来ず。いや、たぶん、完全にプリントされた樹脂を溶かして、本体のヒビを埋めた後に同じ柄をプリントすれば元通りになるのかもしれないが、それは直したっていうのとは違うような気がするし。ってことで、とりあえずヒビ埋めをして水漏れしない状態までは直して返却となった。
それにしても色を焼き付けない陶磁器というのは驚いた。100円ショップでたくさん売っている器を丁寧に見てみたら、案外、このプリント陶磁器っていうのは多いことが分かった。そりゃ、加熱の経費を削減できるから、簡単で日常使いの耐水耐熱性があれば、そういう技術はどんどん使われるよなぁ。でも、そうすると完全な使い捨てな器が増えていくことになる。修理屋としては、こういう器が増えていくことは、かなり考えものだ。最近は販売品に対するメーカーの義務とか責任がより厳しくなって、エコロジー的な観点から出来るだけリサイクル可能な材料を使うことまで見当されているというのに、陶磁器についていえば、間違いなく売りっぱなしの一方通行が加速している。しかも、安価だったりするから、購入者もそれに疑問を持たない。困った状況だと思いませんか、奥さん(みのもんた風)。
それでも、直せない器は無いというのが私の仕事のポリシーである。こういう器も何とかして直せる方法を考える必要があるのだろう。でもなぁ、どうしたら良いものかなぁ。さっぱり思いつかない。