ケースバイケース

毎度毎度、陶芸とか修理の話で飽きている方もいらっしゃると思いますが(読者がいるかどうかという疑問はさておき)すみません、今回も陶器の修理の話です。
検索エンジンで金継ぎを検索すると、何年か前よりもかなりヒット数が増えてきたように思う。金継ぎ修理の紹介や、実際に仕事として請け負っているサイトも、何となく多くなってきたんじゃないかと思ったりする。(いや、たぶん、増えている。)
それはそれで非常に良いことだと思うし、やっと修理黎明期から脱し始めているとすれば嬉しいことだ。が、個人で楽しむだけならいざしらず、お金をもらって修理しているサイトの、修理に対するいい加減さとか、嘘っぽい記載が増えているのも事実で、これは非常に問題があると思う。
まず気になるのは、ホームセンターで売っている2液性エポキシを使った修理。前にも書いたが、エポキシは主剤と硬化剤が過不足なく反応すれば耐水性も高く安定硬化した樹脂になる。しかし、主剤が多いと接着力が極端に落ちるし、硬化剤が多いと環境ホルモン溶出の問題も出てくる。しかもホームセンターで売っているエポキシはほとんどが耐熱80度以下だし、増量剤が多めに入っていたりするので、陶器を接着することは可能だが、日常食器の修理に使うのは、はっきり言ってタブーだ。日常食器に使えないことは、メーカーも明記している。
にもかかわらず、サイトによっては、大きな陶磁器は漆の接着では持ちこたえられないのでエポキシ使います、と平気で書いているところすらあって情けない限り。私は今まで高さ60cmくらいの壷とか、直径50cmくらいの皿を直したが、この程度の大きさならば漆はしっかりと接着する。持ちこたえられないのは、おそらく、接着用に混ぜる小麦の混合比率を誤っているからだろう。これも前に書いたと思うが、漆と小麦の混合比率が悪いと、極端に接着力が落ちたり、ものすごく硬化に時間のかかる漆になってしまって、実質、接着剤としてほとんど機能しなくなる。自分のミスを漆のせいにするな、とか、混合を誤るくらいなら、もっと漆を信用して単味で使う工夫をしろ、とか思ったりするが、漆と小麦を混ぜるとベタベタするので、強力な接着剤になったと思ってしまうのだろう。
それから、漆屋が本やサイトに書いている漆の説明を、金継ぎする人間が鵜呑みにしている、という問題も多い。
漆についてのおよそ全ての記述は全面塗布を目的とした塗料としての漆の性質についてだが、金継ぎで使用する漆は、むしろ接着剤としての要素が大きい。また、使用は全面塗布ではなく、部分的なものに限られる。よって、全面塗布の塗料として記載された内容を、そのまま金継ぎに流用させてしまうと大きなミスをおかす。
例えば、「漆の塗り面にタバコの火を付けても漆はビクともしない。よって漆の耐熱温度は500度以上ある」と書かれている本があって、漆屋に確認したら本当だと言うので私も信じていたのだが、試しに陶器に塗ってうちの窯で焼いてみたところ、みごとに燃えてチョリチョリになった。家で使っている陶磁器を500度以上に加熱することはないだろうが、漆が500度に耐えるのは、あくまでもピンポイントの瞬間的昇温に限った場合で、耐熱500度と書くのは適切ではないと思う。
また、「漆の接着力は強く耐水性がある」というのも、確かに間違いではないが、それはあくまでも塗料として多孔質の物に使った場合に限られる。漆は硬化すると表層に耐水耐薬品の皮膜を作るが、それは諸刃の剣で、陶磁器接着に関しては密着力低下の原因になる。特に、水中での境界面(漆と陶磁器素地の接している面)の密着力は加速度的に落ちて、24時間後には簡単に剥がれてしまう。金継ぎで金や銀の金属粉を表面に蒔くが、これは装飾的な意味に加え、この境界面に水分が浸入することを防止する役目を担っているのではないか、ということに最近気づいた。昔の人はよく考えたものだ。だが、それでも花器のように常に水を入れて使用する場合は、漆器のような全面塗布ではないので、境界面への水の浸入を完全に遮断するのは不可能だから、食器などに比べれば再破損の確立は高くなるし、磁器や釉層のガラス面に至っては、接着のアンカー効果も期待できないため、数ヶ月も経たずに漆は取れてしまうことも少なくない。(ちなみに、水の温度が高くなれば境界面への浸水は加速するので、より早く漆は剥離する。金継ぎの再修理で、器を煮て修理箇所を外すのは、こうしたことによる。)
硬化した漆の粘着力や接着力を研究した資料というのは、ネットで探してみたがほとんどない。金継ぎに関するサイトは増えているのだから、陶磁器修理剤としての漆について記述も、もっと増えるべきだろう。
ちなみに、耐水に関する問題は、私の場合、アロンアルファで接着補助したり、金継ぎの後に人体無害のシランモノマー系の吸水防止剤で被服することで、回避するようにしているが、これも最善の策かどうかは分からないので、漆そのものと、他の方法との両面から更に考えていく必要がある。
<追伸>
エポキシ樹脂の硬化剤として使用されているビスフェノールAは、現在、環境ホルモン物質ではないという見解だそうです。
参考サイト
ビスフェノールA安全性五社研究会
ビスフェノールAについてわかったこと <知識編:2007年3月の最新情報から>
http://www.bisphenol-a.gr.jp/simin2.html
エポキシ樹脂工業会

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