実用修理

壊れた器を実用レベルにまで戻す(あるいは引き上げる)方法として、唯一、現存する伝統技術が金継ぎである。よって、陶器を修理するといえば、ほぼ即、金継ぎであり、そこで使われるのが漆だ。漆というのは事実、実用修理で使うには良い材料だ。
ただし、ここに落とし穴が1つある。あまりにも当たり前で案外見落とされがちだが、それは、陶器の修理を概ね漆職人が担ってきたということだ。漆職人は漆塗りをする職人だが、今どきの言い方に変えれば塗装工とかペンキ屋ということになる(別に悪口として言っているわけではないので、誤解の無きように)。ペンキ屋が陶器の修理やっています、と聞いたら普通はちょっとびっくりすると思うが、ペンキが漆と変わっただけで、さほどびっくりしなくなるのは、漆が単純になじみの薄い塗料だからに他ならない。と思う。では、陶器の修理をペンキ屋がやっているということの何が問題なのかというと、陶器修理には進歩というものが見られないことだ。当然といえば当然の話で、ペンキ屋はペンキを塗るのが仕事であって、陶器の専門家でもなければ、陶器修理の専門家でもない。それゆえに陶器修理の技術的進歩というのはほぼゼロに等しい。修復士が修理の研究をしているが、それはあくまでも復元であったり、物を長期保存する事を念頭に置いた技術であって、日常的に物が使われていくことを前提とした修理とは異なる。これは誰を責めるということではなく、単純に、現在の陶器文化が使い捨ての上に成り立ってきたことにほかならない。(江戸時代には、さまざまな陶器修理技術があったわけだし。)
何故、こんな話をするかというと、先日、私のところに小学生のお客さんが来た。いつも使っていた茶碗を割ってしまったので、直してほしいという依頼である。見ると、白磁の茶碗で、どうも以前に漆で継いだ跡があり、そこが取れてしまったものらしい。話を聞くと、親の手伝いで自分の茶碗を洗っていたら、割れてしまった(正確には接着したところが取れた)ということだった。2週間で直します、と言って茶碗を預かることにした。
さて、じつは白磁に漆というのは、あまり相性が良くない。焼成温度が高く焼き締まりの良い磁器で薄作りになれば、なおさら接着強度は落ちる。どんなに非の打ち所のないセオリー通りの漆修理をしても、子供が扱うことを考えれば、この修理で破損の確率が上がることは、陶磁器を扱う人間ならば察しが付く。
では強度を上げるために、どうしたものかということになるが、ここから先はセオリーが無いので自分で考えなければならない。そこで、まず思いついたのが、中国の鎹(かすがい)止めという修理方法。日本には馬蝗絆という名前の国宝があるが、この馬蝗絆が鎹止めである。これは割れた破片に鎹を打ち込んで外れないようにしたもので、一見すると弱そうに見えるが、以前に骨董店で鎹止めを見せてもらった時、そのあまりの素晴らしい修理に唸ってしまったほど、強度が高い。何しろ、指ではじくと澄んだ奇麗な音がするくらいだ。この、鎹止めを上手く取り入れることが出来れば強度が期待できる。しかし、鎹止めは見た目が良くない。
そこで、透明樹脂でこの鎹を作り、素地に打ち込んだら良いのではないかと思いついた。幸い、樹脂は加工が楽だし、シリコン型での量産も可能だ。試しに画鋲の針先を曲げて型をとり、透明樹脂を流し込んで小さな鎹を作り、約3cm間隔でルーターを使い素地に穴を開け、樹脂の鎹を片面に埋め込み、更にゼリー状のアロンアルファを塗って、反対側の素地穴に差し込んで1晩置いてみた。結果は、思った通り。これだけでかなりの強度が得られた。ゼリー状アロンアルファは硬化でわずかに目減りするため、それにより素地を指ではじくと澄んだ奇麗な音を出すほど、素地を密着させる効果を生む。3cm間隔で鎹を打ったので、その間に漆を使えば、ハイブリットで強度は増すはずである。
というわけで、預かった茶碗は、無事、2週間で依頼主の手元に戻すことが出来た。返す時に「割れた器は必ず直るから、いっぱいお母さんのお手伝いをしてあげてね」と言ったら、何となく喜んでいた(ように見えた。何分にも私には子供の心はよく分からない)。
今回の小学生のおかげで、私は実用陶器の修理が少し進化したのではないかと思っている。以前に、何度も壊して何度も直すという器との付き合い方がある、という話をしたが、出来ることなら少しでも修理スパンは長いほうがいいのは言うまでもない。「ほん陶」という看板を上げた以上、日常陶器の修理の進歩を少しでも進めてみたい。

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