本漆と合成漆

先月から、猫田に小判のダイアリーは金継ぎをキーワードに検索エンジンから訪れる方がいらっしゃるのを知った。とは言っても、月に2,3件なのだが、総計10件前後のアクセス数なので、それはそれで凄いと正直思う。
せっかく来て頂いて、大した情報もないのは恐縮なので、なかなかサイト上で見つからない(というか私が見つけられないだけかもしれない)情報をちょっと書いて置こうかと思う。
陶器修理を紹介しているサイトや書籍の中には、合成漆は本漆に比べて接着力が劣るという理由で合成漆の金継ぎを全否定するものがあるようだが、これは明らかに勘違いしていると思う。もっとも、乾いた後に人体無害になる工芸用塗料だからという理由で合成漆に「漆」という名称を用いたことが根本的な問題で、それゆえにイチャモンつけられているのだとは思うが、それはとりあえず置いておくとして、重要なのは合成漆と本漆とは根本的に性質が異なるという点を、使用する人がきちんと理解しておくということだ。この性質の違いをきちんと理解すれば合成漆が漆に劣る云々とは言えないと私は考えているのだが、それについてきちんと説明をした金継ぎの書籍やサイトは(私の知る限り)皆無に近い。これも問題だろう。また、合成漆は、私が入手できたものだけで4社あるが、添加した油の種類や、乾燥の仕方で、それぞれがまた微妙に違ったりするので、ここも注意しなければいけないところだと思う。
さて、こうした漆および合成漆を扱う際に、重要な判断要素となるものの一つに、その材質が硬性なのか、それとも弾性なのか、ということがある。もう少し説明すると、硬性は乾いた後(正確には硬化反応が終了した後)に固くなるもの、弾性はゴムのように伸縮性を有するものをいう。たとえば、出来るだけ平滑なガラス板、あるいはポリプロピレン(プラスチックの一種)板に、合成漆と本漆を薄く塗って、両方を乾かす(常温放置で1〜2週間すれば、どちらも乾きます)。その後、それぞれをツメで引っ掻いてみると、本漆は奇麗に剥がれ、剥がしたものを折ってみるとパキンと割れるのに対し、合成漆はかなり剥がれにくく、剥がす時や剥がした後でも伸縮をする。つまり、本漆は硬性なのに対し、合成漆は弾性の性質があるわけだ。
接着の観点から言えば、硬性の接着剤は接着力が強い反面、せん断や衝撃に弱く、弾性の接着剤は硬性よりも接着性は劣るが、せん断や衝撃に強いという、双方に一長一短がある。合成漆が釣り竿関連の会社から多く発売されているのは、こうした理由もよるところがおそらく大きい。よって、本来、陶磁器を修理する際にも、この性質を利用し対象となる陶磁器の部位や使用頻度に応じて使い分けることが大切で、もう少し言えば、接着用と被服金蒔き用でも、本漆と合成漆は使い分けたほうが良いとも言える。
また、修理屋ではなく焼き物屋の側から言うと、最近の陶磁器は(個人作家の物は別として)ニーズに合わせて、焼き物の素材自体の性質が昔とはかなり変わってきている。限りなく磁器に近い陶器もあれば、陶器っぽい加工をした磁器もあるし、素地の粒子や焼結の度合いも、精度の高いものが増えている。おそらく今後はファインセラミックやコレールのような磁器風ガラスも修理品として出てくるかもしれない。そうした変化に対して、すべてを本漆だけ、あるいは合成漆だけで解決しようというのは、かなり難しいことなのではないかと思ったりする。
こと実用を主目的とした陶磁器において、使用する材料が人体に無害であるなら、その性質を十分に理解し、ニーズに合わせて使い分けることは、私は悪いことではないと思うし、そこのフォローをきちんと説明する書籍やサイトは絶対に必要だと個人的には考えている。
金継ぎが趣味で、このサイトを見つけた方は、被れるとか、扱いが面倒とか、教わっている先生が言ったからという理由で、本漆と合成漆はどちらが良いのかという二者択一的な判断をせず、自分なりに修理品をよく観察して、両方を使ってみることをお勧めしたいと思う。その結果、どちらか一つに絞るなら、それはそれで良いことだとは思うし。