安全ということ

今日、本屋で新しい金継ぎの本を見つけたので立ち読みしてみた。
この本では、固形のエポキシパテを使って接合し、表層は合成漆を使用。混合の場合は洋金(銅と亜鉛の合金)、蒔く場合は金消粉(金の微粉末)を使うという方法だった。まぁ、そういう方法もあるだろうと思って読んでいたのだが、巻末に気になる一文が。「材料を試行錯誤し、安全で手軽な金継ぎを開発」。・・・あ、安全?おいおい、そんなに言い切っていいのか。出版社の信用問題にもなりかねないぞ。大丈夫なのか?
エポキシ接着剤は少なくとも100%無害ではない。一応、完全硬化すれば分子は安定し、耐熱耐薬品性になるが、これはあくまでも、A剤(エポキシ樹脂)とB剤(アミン系硬化剤)が過不足なく反応した場合のみ。手で混合した場合、完璧な混合はまず行われないと思った方がいい。では、完璧な混合が行われない場合はどうなるかというと、エポキシ樹脂の原料として使われているビスフェノールAという環境ホルモンが出てくる可能性が高くなる。また、このエポキシ修理陶器を廃棄し、埋め立て処理されると、分解生成物としてビスフェノールAが生成される可能性は決して低くない。環境ホルモンが人体に与える影響は研究段階であり、確証されたものではないのだが、無害安全と言い切れることはないという話だ。
また、合成漆は完全に硬化すれば無害というのがメーカーの言い分なのだが、使用原料を公開していないので、これは何とも言えない。私も問い合わせてみたのだが、何とも歯切れの悪い回答しか頂けなかった。しかも、合成漆は意外と剥離しやすい。常温硬化可能な漆だが、それでも乾燥時の気温が低いと定着が悪くなる(実証済み)。もっとも使用量や接触頻度から考えて、この組み合わせにしたから、内臓を痛めたとか、死んでしまうことはないと思うので、私としても気軽に器を修理するなら、この方法は現実的な方法だと思う。ただし、そうしたリスクを承知の上で使うということは大切であり、まして書籍にする人間は、それをきちんと説明した上で修理方法を書くべきだ。
では、天然由来で古来から使われている漆が100%安全か、というと、そうとも言えない。漆は安全だと書かれていることは多いが、これも完全に硬化してしまえば耐熱耐薬品性で確かに安全域になるのだが、問題は完全硬化したかどうかの判断が非常に難しいことにある。前回書いたが、漆は酸素と反応して硬化を行う。よって磁器質のように気密性の高い器の場合は表層のみ硬化し、芯に近い部分の完全硬化には1年以上を要することさえある。温度20度前後、湿度80%以上の環境で1〜2週間置けば、使用可能程度の接着強度に達するので、大抵は、その状態を硬化したとすることが多いが、完全硬化かどうかまでは判断できない。では硬化しない状態で器を使うとどうなるかというと、個人差はあるが、漆に弱い人間はタンパク質反応で、ものすごくかぶれる。かぶれにより死ぬことはないが、かぶれた人間には辛いことだろう。漆器でも、硬化が不完全な食器を購入し、かぶれたという話はある。陶磁器の金継ぎでも同様だ。
そう考えると、本当は気軽に「安全」という言葉は使えない。安全には大なり小なりリスクは付き物ということだろう。それを理解した上で、安全という言葉を使うかどうかは、たぶん、その言葉を使う人間の考え方による。特に仕事で安全という言葉を使う時には、かなり慎重になる必要があるのだろう。

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