陶芸どう?『資源意識』

少し前に、茂木から粘土生産終了の通知が届いた。良質な原土の鉱床を見つけるのが困難になり、砂目の多い低質な粘土に切り替えて販売を継続するよりも生産と販売の終了を選んだという旨が記載されていた。粘土生産の終了に伴い、精土場も閉鎖されるそうだ。これまで、知らない間に連絡がとれなくなるということはあったが、こうした通知を頂いて生産終了を見届けることは無かったので、非常に感慨深いものがあった。ちなみに私は栃木出身なので、より心に沁みるものがある。茂木陶土は最盛期には年間440万tも粘土を生産していたそうだ。
ところで、あまり知られていないが粘土と一口に言っても、その種類や用途は極めて多岐に渡っており、窯業の他にも建材や工業品、更に化粧品や医薬品など身の回りには粘土を使用したモノは非常に多く需要は高い。天然資源としての埋蔵量は多いが、不純物の少ない高純度のものを見つけることは容易ではない。また粘土は産出場所により性質が異なるので均質なクオリティーを確保するのに苦労する。それゆえに日本はアジア、アメリカ、ブラジル、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界各国から粘土を輸入しており、コスト高でも海外への依存は増加している。
窯業においてもそれは同様だ。世界有数の良質な粘土を保有、産出すると言われてきた日本も、近年の粘土資源の枯渇はかなり深刻な問題で、そのため国内供給の比率が高いとはいえ、海外供給を積極的に利用する傾向は強くなっている。
陶磁器に使用する粘土は、主に約200万年〜2500万年前に花崗岩類がカオリニゼーション化、湖生成堆積したもので、この内、不純物が少なく粘性があり可塑性(成形後、形体が維持される性質)の高いものが良質とさる。日本には九州や東海地方にこうした良質粘土の鉱床が多く、現在もなお日本有数の窯業産地となっている。実際、山野の断層面には粘土層をよく見ることが出来、陶芸を趣味とする人は粘土を掘りに行ったりもする。
しかし、趣味や少数の作家が使う量ならいざしらず、産業として考えると話はそう簡単ではない。以前、粘土採掘現場へ見学に行った際「粘土採掘だけで生計を立てるなんてことは出来ませんよ。うちは枯渇して採掘が不可能になった土地を不動産として利用することで生計を立てています。採掘の収入は不動産よりも低いんですよ。」という話をうかがった。事務所の一角に採掘中の山の写真と、広大な平地の写真とが並べて飾られており「この山が20年でこうなるんです」と説明されてかなり驚いた記憶がある。
こうした粘土の枯渇に対応して、粘土生産や販売もまた一地区産出のものだけを扱うよりも、出来るだけ手広く多種に、更にブレンドした調整粘土が主力になっている。
ブレンド粘土の代表的なものに信楽土がある。この粘土は非常に広く販売されており、販売表を見ると大抵の販売メーカーには記載されている。茂木でも茂木土と信楽土の2種類を販売していた。信楽という名称が付いているので滋賀県信楽産の粘土と思いがちだが、実際には乾燥や焼成で切れや発砲が出来ないよう調整した精製土で、窯業関係者も産地特定は難しく、また生産箇所も信楽ではないことが多い。原料の多くが海外産を使用しているという話も聞く。要するに魚で言うところの銀ムツみたいなものだ(ちなみに、銀ムツはスズキ目コオリウオ亜目ノトセニア科Dissostichus属の海外魚で通称メロ。チリや南極近辺で漁獲する。銀ムツは消費者に購買させるために業者が付けた架空の魚の名称)。
今日、陶芸用品売り場で販売している粘土の多くは、同じような調整粘土がほとんどだ。産地名のついた粘土も100%産地の同一鉱床から得られたものというのは稀で、多くはブレンドまたは近似した焼き上がりになるよう全く異なる粘土を掛け合わせて作っている。なお、私は調整土の販売が悪いとは思っていない。調整することで焼成での破損を軽減できれば資源の無駄な消費を減らすという大きな利点が生まれる。また、趣味も含めて陶芸の裾野がここまで広がった背景に調整土開発の多大な恩恵があることは言うまでも無い。?ただし調整土や原料の海外依存がいくら増えても、本来、資源というのは無限ではない。いずれ粘土資源は必ず枯渇する。研究開発によって粘土の生産技術は向上しているが、土を扱う人間は枯渇という問題を常に背負っているということを心しておかなければいけないだろう。そして陶磁器を扱う側もまた、その一端にいる事を忘れてはならない。
(追記)ハードディスクを交換してエッセーを書き直している間に、茂木から在庫分の販売も無事終了し、閉鎖が完了したという葉書が届いていた。何も協力は出来なかったが、窯業へのこれまでの御尽力を心から感謝する旨を、一陶芸関係者として書き留めておきたいと思う。?

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