KEY COFFEE WEB「ヤキモノヤのヤキマメ」

 幼少の砌より私は基本的にオタク体質だ。捨て身で熱中するところは、凝り性よりもオタクの方があっていると思う。忘れもしない2年前のクリスマスイブの昼。珈琲好きが高じて炭火焙煎に手を出した。仕事がら、火の扱いに多少の自信はあったのだが、初の焙煎は得体のしれない黒い粒が200g完成。苦い汁にミルクを入れて5日間飲んだ。この苦渋で焙煎魂が発火。資料集めに燃料の吟味、焙煎装置の改造に精神の鍛錬まで、焙煎モード全開に突入する。おかげさまで今は職場の同僚にも一応の太鼓判を押していただける程度の味にはなった。同僚の皆さま、お付き合いありがとう。
 毎週末は焙煎が日課になっている。焙煎の時に漂う独特の芳香は、豆を焼く者だけが知る甘美な贅沢だ。この香りに出会うだけでも十分に幸せだと思うが、さらに、美しく焼きあがった豆を愛で、自作の珈琲専用焙烙で湯を沸かし、自作のドリッパーで煎れ、自作のカップでいただく。それはモノ作り冥利につきる悦楽の極み、贅沢の凝集にほかならない。ちなみに周りの人間は「あいつ、いずれKEY COFFEE農園の木を買うぞ」と言っているらしいが、いや、まだそこまでは考えてませんよ、マジマジ。
 ところで、珈琲の焙煎は陶磁器の焼成とよく似ている。温度域こそ異なるが、昇温の加熱パターンはとても似ている、と少し前に気づいた。陶芸には「一焼き二土三細工」という言葉があり、これは作品の個性を決める要が焼きであることを意味する。陶磁器がヤキモノと呼ばれる由縁だ。加熱時間の半分強は、ゆっくりと時間をかけて土の水分を抜くための焙りと呼ばれる初期焼成で、その後、酸素量を調節しながら一気に温度を上げていく。熱で原料をガラス質に変え、酸素量と加熱法で表情を作るのが陶という芸事である。珈琲も熱を利用し豆の化学変化で味を作っている。焼き方は味を決定する上位要素で、腕の良い焙煎職人は客の好みに応じて珈琲の味を幾通りにも作り分けられるそうだ。職人の秘伝はさておき、私はつたない経験から、焙煎も陶磁器焼成同様に水分の除去と加熱の操作がポイントになると思っている。事実、陶磁器の昇温パターンを念頭に焙煎をすると、じつに美しく、焼き豆の風味と個性がよく分かる珈琲豆に仕上がる。
 しかし、焙煎と焼成では加熱終了後の冷却に大きな違いがある。珈琲豆は焙煎を止めるため、ただちに急冷するのが絶対条件となっているようだ。だが陶芸では冷却も重要な焼成要素で、徐冷という技術を使う。これは計算的にゆっくりと冷ましたり、一時的再加熱で冷却中に揺さぶりをかけるテクニックで、こうすると陶磁器の表情がより豊かなものになる。そこで最近、焙煎にもこの徐冷という味の作り方があるのではないかと考えている。
 珈琲は正統派の焼きもの系飲料だと思う。新しい味のアプローチとして焼き方を工夫をしてみるのは一興だ。一つの成功のための百の失敗はモノ作りの性分。妙な味の珈琲を飲むのは慣れっ子になった。ヤキモノヤが作るヤキマメは、いろんな味になるけれど、いつでもちょっと前向きにしておきたい。

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