陶芸どう?『抹茶急須』

以前に製作中の特殊な急須が完成した暁には報告をすると約束していたので、今回はその後の急須制作の進行状況について追記しておきたいと思う。
とは言え、この掲示板以外は巡回していないという方がいらっしゃるだろうし(ほとんどは、その逆と思われるが)、事の発端はパソコン通信時代の会議室の話であったりするので、まずはそこから話を始める必要があるだろう。
特殊な急須の正体は抹茶用急須である。茶葉を入れて湯を注ぎエキスを抽出するための煎茶道具が、いわゆる急須と呼ばれるモノで、現状ではそれ以上でもそれ以下でもない。多少、形態の違いはあっても、基本的に急須は茶葉エキスの抽出器具をいう。
では、何故、エキス抽出とは無縁なはずの抹茶急須を作っているのかという話だが、発想の原点は、掲示板が会議室と呼ばれていた頃に、私がオフ会のアトラクションとして提案し、それを実現させるために制作した「口付き茶碗」にある。これは口辺の一辺を曲げて注ぎ口にした片口鉢に似た茶碗で、亭主がこの茶碗を使って抹茶を点て、客は持参した湯のみに好きな量だけ注いで飲むという、極めてイレギュラーな手前アトラクションで使用する。そうしたアトラクションを提唱した理由は至極単純で「抹茶は飲みたいが茶道は嫌い。特に見ず知らずの人間との飲み廻しを強制される手前は(それが伝統であれ美徳であれ)納得出来ん」というワガママによる。カップの野菜とドレッシングすら別売りするこの時代に、あくまで強制的に口移しとセットでなければ飲めない抹茶。そんな強制が無くても抹茶の味は変らないだろうという実験的な意味合いもあった。
ところで話は逸れるが、陶芸の個展のDMを頂くとその多くに「本当の○○焼き」という実に胡散臭い売り文句が併記されている。最近も本当の唐津焼があった(なお作者に対しての恨み等は全くない。例として使用したただけなので御了承頂きたい)。何を以ての本当なのか?例えば、本当の唐津焼きのDMに掲載されている器の写真は明らかに17世紀の茶碗の写しだ。材料を厳選し、薪窯で時間をかけて焼いた事のステータスなのかもしれないが、写しの茶碗の何処に本当があるのかは正直、理解に苦しむ。17世紀の茶碗は17世紀の空気の中で生まれたからこその本当であって、21世紀に作った17世紀の写しを私は本当とは定義しない。もし、唐津焼を本当に作るのなら、それは21世紀の空気の中で生まれた新しい命を感じるモノに対して定義出来る物品を作ってこそだと思う。
そこで急須の話に戻るが、茶道というコミュニティにも、これと似た納得いかない本物志向を私は感じている。20世紀に生まれた人間が17世紀の真似事を本当だと信じている。無論、当事者にすれば伝統とか思想とかいろいろな基台の上にあっての茶道だから門外漢の言葉など戯言でしかないだろう。しかし、茶道が時代を欲するのと同様に時代は茶道を欲しているのか?茶道は愛される努力以上に愛する努力をしているのかと門外漢だからこそ素朴に考えた結論の一つが抹茶の幽閉と、その自立だった。抹茶がまるで茶道という高い塔に囚われたお姫様のように感じはしないだろうか。そのお姫様に少しでも自由を感じてもらえないかと考えた私なりの発展的解決が抹茶急須だ。
21世紀の本当の抹茶は、まず自身が自由な飲み物になる必要がある。そのためには茶筅という思想に頼らない新しい構造と形体の抹茶の為の器具が必要だろうと考えた。作る上でのポイントを2つに絞った。一つは急須と同じ手数で抹茶が飲めること。もう一つが急須並みの手軽さで器具を洗浄できること。それが可能になった上で、あえて茶道が持つ思想を形体に付加出来ればという読みは当然ある。抹茶急須は茶道と喧嘩をするための道具ではない。
さて、そうした形状コンセプトに沿って試作品を作り実験を重ねた末、現在の抹茶用急須は、球形の蓋付き擂り鉢に口を付けた形状で、その急須の中に磁土で作った攪拌玉が7つ入れてある。抹茶を飲む時には、粉とお湯を入れて蓋をし、手で押さえながら横に何度か回すと、攪拌玉がカラカラと涼しげな音を立てて抹茶飲料が出来上がるという仕組みだ。あとは湯飲みに注いで飲むだけだ。飲料としては十分に飲むことが出来る。洗浄も極めて楽だ。泡が立たないのが難点だが、この辺は攪拌玉の工夫で多少は改善できるだろう。もっとも泡は味の要素ではあるが、茶道式抹茶と煎茶の間の飲料と考えれば、それほど泡にこだわる必要もないかとも思っている。
ちなみに、試験的に陶芸教室で公開したところ、そこそこ好評で、欲しいという人がいらしたのでモニターを兼ねて差し上げた。だが、抹茶よりも青汁作りにすこぶる調子が良いということで、ほとんど抹茶飲料には使われていないらしい。なるほど、抹茶よりも時代は青汁なのか・・・。納得したいような、したくないような。抹茶急須への道のりは、やはり簡単ではないらしい。

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