陶芸どう?『陶磁器循環その2』

陶磁器がエコロジー問題の出発点である理由は原料からのアプローチが手っ取り早い。陶磁器の素地および釉薬は、主原料として長石や粘土(粘土は長石の分解生成物)、珪石そして木灰や石灰などを使用する。こうした原料は加熱によって以下のような変化を起こす。
500度付近で粘土の結晶水の分解が始り、600度付近で珪石がαからβに転移、1100度を超えると粘土がシリカを遊離しムライトを生成、遊離したシリカは結晶化後にアルカリと反応しガラス化する。素地に含まれる長石は自身の含有するアルカリによって1150度前後で融液化を開始、残留した結晶物の隙間に入り込んで素地を焼結させる。一方アルカリ材(木灰や石灰)は分解後、1100度近辺で長石を溶融させ釉化を促す。こうした変化がおよそ一段落するのが1250度近辺だ。
我々は原料の熱変性を利用し生活に欠く事の出来ない陶磁器をこのように作っているが、ここで注意しなければならないのは、焼成による原料の変性は不可逆だ。つまり加熱を行えば二度と元の原料には戻せない。しかも、この不可逆を人類は推定1万5千年以上前から続けている。
不可逆である事は作品の永遠性の魅力であり美談として語られる。しかし裏を返せば、それは永久廃棄物としての残留の可能性を意味している。だが、多くの陶芸関係者は存在の永遠性という魅惑のベールを使って、永久廃棄物という事実の内包に目隠しをしてきた。特に美術工芸品としての陶磁器はこの傾向が強く、陶芸家は失敗作品を無限に壊すことが許される人間だという勘違いが横行し、陶磁器は野山に撒き散らかされているも同然だった。更に現在、アジア産の破格の陶磁器が大量に日本に輸入され、使い捨て同然に陶磁器は売買、そして不燃物として廃棄されている。
無論、インダストリアルには大量生産を利用し商品をより多くの人間に安価・平等に配布するという使命があるので、多商品の安価な提供自体は悪いことではない。更に前回記載した通り、モノ作りは人類の生命活動に直結する行為であって、陶磁器の制作・廃棄が繰り返される全てを否定することは出来ない。だが人類の消費行動は、もはや環境および生態系問題の域に達しており、使命や生命活動という衝立では対処しきれない臨界点にあるのも事実だ。
こうした状況に対して制作者および使用者は、陶磁器に対する正しい知識を持ち、全てのモノはゴミに成り得るという前提をもっと直視することが何よりも必要だ。その上で、生産者・消費者の両者の責務として陶磁器の完全循環を開発・推進する必要がある。
そこで、陶磁器環境問題の新たなアプローチとして不要陶磁器の完全循環を研究・推進するプロジェクトの紹介をしたい。それが日本有数の窯業産地、岐阜県美濃市の窯業関係者が主軸となって行っているGL21(グリーンライフ21)プロジェクトだ。活動を要約すると、日本中の不要となった陶磁食器を回収しミクロン単位の粒子に粉砕した後、セルベンとしてバージン粘土と混ぜた再生杯土(RCL粘土)を作り、Re-食器という名称で食器の制作と販売を行うというもの。コンセプトは「器から器へ」。廃棄した器を100%器に戻し環境負荷を減らす試みで、再生に伴う負荷やエネルギー量は新しい陶磁器を作るのと変らない。最近やっとメディアも注目し始め、回収拠点も増えつつあるが、残念ながらまだ認知度は低い。現在はセルベン量が粘土総量の20%と少ないが、これは現在の不要陶磁器回収量から算出されたもので技術的には50パーセントまでの混入が可能。それ以上でも成形方法を工夫することで十分に実用性のある食器の制作は可能であり、セルベンが増えると焼結温度が低くなるため焼成燃料の消費を減らせる可能性もあるそうだ。
なお、現状では回収可能な陶磁器が土鍋を除く日用食器に限られるという難点がある。土鍋は成分的な問題なのだが、食器以外の陶磁器(花器など)は、Re-食器を購入する消費者が食器以外の再生品が混じっていると不快に感じるという理由で回収が制限されている。成形品は1250度という高温で焼かれるので原料が食器以外でも何ら心配無用なのだが、日本人のケガレ思想と無知がこうした状況を作っているのは非常に残念だ。もっとも、これらの研究や活動が他の多くの窯業産地で行われ、食器以外の再生専門分野が確立されれば回収キャパも循環効率も上がることは間違いない。さらに再生をきっかけに陶磁器に使用される重金属問題を始め、より還元率の高いデザインの意識向上が進むことで、生産者の物作り意識と消費者の陶磁器に対する関心が高まる事を期待して止まない。
生命は摂取・選択・廃棄を行う。そして本来は維持活動として廃棄を摂取に繋げる能力をも持っている。陶芸が次世代に生き残っていくことを本当に望むなら、陶磁器の環状形成について真剣に考える必要があるだろう。
GL21プロジェクトのホームページアドレス。
http://www.nagoyanet.ne.jp/gl21/
GL21プロジェクトでは、現在も不要陶磁器の回収拠点を全国に募集している。もし、力添えできるような商店・学校・企業・その他機関があったら、是非、問い合わせをして頂きたいと切に願う次第である。本当は、陶磁器にからんだ仕事をしている全ての人間が回収拠点として協力することが望ましいと思うわけだが。(ちなみに、うちの陶芸教室は今年からやっと回収拠点として協力し始めた。)
なお、GL21に続き、佐賀県の有田市でも再生陶磁器の研究開発が実現に向けて進んでいることを付記しておく

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です