陶芸どう?『修理再考』

実は先月まで厚生労働省委託の「サービス分野人材育成プロジェクト」というものに首を突っ込んでいました。百万部以上のチラシを配って参加者が百名に満たないという、民間なら大目玉な企画。その中のカルチャーサービス部門で話をしておりました。というわけで、今回はその中の一部をお送りいたします。(ごめんなさい。本当は掲示板用の原稿を書く時間がなかっただけです。一応、掲示板用に修正加筆しましたので、ご容赦を。)
「修復ビジネスにおける陶芸的アプローチ」
皆さんは髪を洗う時に使うリンスとトリートメントの違いをご存知でしょうか?私も詳細に知っているわけではありませんが、リンスというのはシャンプーによって酸性化した髪質を中性あるいは弱アルカリ性に戻すためのもので、トリートメントは髪の痛んだ部分を治すためのものだそうです。
このトリートメントを日本語では「治療」と訳します。髪に限らずトリートメントは身体の治療全般に使用されます。ちなみに、トリートという用語には代替の利かない唯一物だから出来る限り大切に扱うという意味があります。
身体と同様、モノにも治療を行うことがあります。日本語では修理。英語ではリペアと言います。しかし現在は大量消費の使い捨てが全盛です。デフレにより陶磁器も単価が落ち、現在は使い捨てが当たり前と考える人も多くなっています。割ってストレスを解消するために陶磁器を買っているという話がラジオで平然と読まれる昨今です。新規購入が安価だという事に加えて、機能性よりもファッション性を優先し、同一機能の異なるデザイン商品を早いサイクルで市場に投入する消費拡大型マーケットを企業が行い、新しいデザインを購買することで時代の先端を共有しているというコマーシャルメッセージを多くの日本人が受入れたという理由もあります。
さて、ここで理解して頂きたい重要な事は、決して日本人の修理技術が未熟だったから新規購入が主流になったわけではないということです。
陶芸は室町時代後期より高度な修理技術が発達し、現在までそうして修理された陶磁器が多く残されています。こうした修理には漆継ぎや金継ぎ、玉継ぎなどの優れた技法があり、更にその修復が優れた技能者によって行われると、オリジナルよりも高く評価されるという独自の文化が生まれました。伝統産業には、こうした高度な修復技術を持つものが多く、ゆえに修理美学に対する深い造形感も持っていたわけです。
しかし、そうした優れた文化をカルチャーサービス業はメッセージとして多くの人に伝える作業を怠り、残念ながら修理技法や思想が絶滅に瀕しています。一部には、そうした思想が僅かに残っていますが、メッセージとして伝え続けるためのノウハウを作らず珍重する事が優先され、修理品を生活の中で使い込んでいくというモチベーションへの転換にまで至っていないと私は思います。言うなれば、古いものが良いという形骸化した思想だけが残り、修理によって古いものが新しいものに転換され時代の中で息づいていくというプロセスを、伝える強さがないわけです。
今後のカルチャーサービスは、修理することで長く使えるというメッセージを明示し、更に、高度な修理を実践していく必要があります。とは言え、現代は物を大切にしろというメッセージだけでは何の説得力も無いでしょう。重要なのは、物にはそれを作った人間がいて、物を購入し使うことは、作った人間を想う掛け替えのないメタファーだというメッセージ性です。
心を込めて物を作ったというメッセージ、それを、より長く大切に使ってほしいというメッセージ、そして修理システムの構築はサービスにとっての重要な課題だと言えます。
江戸時代には玉継屋という陶磁器修理巡回業があったそうです。つまり江戸時代には修理ビジネスというものが成立していたわけですが、残念ながら現在は玉継ぎの技術もビジネスモデルも残ってはいません。もっとも、江戸時代は物資が少なく貴重であったため修理ビジネスが成立していたとも考えられます。
物が豊富にある現在、同じビジネスモデルでの商売は難しいと思いますが、物が豊富な時代であっても、物を掛け替えの無いものとして使うことの大切さは変わらないと思いますので、時代に即応した新しい修復のメッセージとビジネスを構築することは極めて重要だと考えます。
ちなみに、うちの陶芸教室では、生徒が作った作品は日常使用中に破損した場合、修理方法を説明した上で無償修理を行う保障を謳っています。それが物を作って頂いたことへの陶芸教室なりの感謝と責任だと私が考えているからです。
これから何らかの形で物を作る仕事、あるいは物を作る人を対象とした仕事をされる方は、物を作るということは、それを長く使うこと、そして責任を持って処分再生する事を考えて頂きたいと思います。
<補足>玉継ぎは、低温熔融の鉛ガラス(白玉)を使用し、破損陶磁器を接着する技法。金継ぎよりも短時間で安価かつ十分な実用強度が得られるため、庶民の間で一般化していた。

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